「盗塁ができる走者が一塁にいると、初球は様子を見るためにボール球を外に投げてくるケースがありますよね。そうなれば、バッターは1ボールからスタートできます。走者に走る気がなくてもそれができるわけですから、バッター有利のカウントを作れる」

「つまり、投手と打者との1対1の勝負が多かったうちの野球に、今季は2人か3人で攻撃ができているということなんです。クイックしなきゃいけない。ゴロも打たせられないと投手が考えればピッチングは窮屈になるし、守備にはプレッシャーが掛かる。バッターだけに集中できない状況が作れると思うんです」

 少し古い話になるが、8月2日の楽天戦において、西武が目指す野球を見た。

 楽天がエース則本昂大を先発に立ててきた試合で、西武は山川穂高が則本から2打席連続、そして久保裕也からも本塁打を放って計3本塁打と活躍して7-4で勝利した。この山川が第3打席に放った2本目の本塁打こそ、今季の西武の特徴が表れたシーンだった。

 6回裏1死から5番の栗山巧が中前安打で出塁し、6番・山川を迎えた。ここで、辻監督は早めの手を打ち、栗山に変えて代走・水口大地を送った。

 則本が2球のけん制を挟んだのちにストレートを投じると、山川はそのストレートを完璧に捉えてセンターへ放り込んだのだった。

 ストレートを狙い打ちした打球はすさまじかったが、ここでポイントとなったのはそこに至るまでの過程だ。山川は2打席目に則本からホームランを打っている。フォークボールがすっぽ抜けたのを見逃さずに打ったものだった。フォークを打ったわけだから、セオリーでは次打席の第3打席はストレートを狙うものだ。もちろん、則本もそんなことは分かっている。

 ここで辻監督は栗山に代わって盗塁ができる走者を代走に送っている。つまり、投手がストレートを投げたくなる状況を作ったわけである。則本がけん制を二度挟んだのは、走者・水口を気にしたからだろう。それでも警戒した則本はストレートで勝負に行った。それを狙い打ったのが山川だった。

 チームで奪った1本。会心の勝利だった。

 盗塁数が多くなければ「足」は警戒されない。「足」を警戒されるから、バッターとの勝負が少し疎かになる。

 リーグトップの得点力の裏には、12球団トップの盗塁数にして、その数字をうまく利用した“したたかな野球”がある。(文・氏原英明)