「早期胃がんは、若い人では90%程度の5年生存率があります。それに比べると85歳以上では30ポイントくらい低いことになります。ほとんどが胃がんではなく、他の病気が原因で亡くなります」

 胃がんは治ったものの、やがて心臓や脳などの他の病気が発症し他病死することがある。85歳以上の5年生存率が30ポイントも落ちる原因の分析はきわめて難しいとしつつ、比企医師はこう続ける。

「高齢者には、がんが再発しないことだけに注目して、胃全摘や胃を3分の2切除する標準治療をおこなうのではなく、胃の切除範囲を縮小する手術も考慮する時代となってくると思います」

 現状、再発リスクを減らすため、高齢者にも胃全摘を実施する病院は多い。客観的なエビデンスはないとしながらも、大きな手術が間接的な引き金になって、他の病気で亡くなることもありえると比企医師は話す。縮小手術でからだの負担を少なくし、体力、筋力を温存し、QOL(生活の質)も良くすることは重要だという。

 比企医師は自らが考案した「LECS(腹腔鏡・内視鏡合同胃局所切除)」という術式を最近、胃がんに適応し始めた。胃カメラの先端に治療器具が付いた内視鏡で胃の内側からと、おなかに複数開けた孔に差し込む腹腔鏡で胃の外側からと、同時におこなう手術だ。より狭い切除範囲でがんを取ることができる。

「LECSだと早期胃がんの場合、再発率は約20%に高まります。しかし、高齢者の現実を考えると、手術範囲を小さくしてQOLを良くする点で、将来的にLECSが貢献できるのではないかと考えています」(同)

■術前にリスク見極め合併症を減らす

 高齢者に手術をしたほうがいいかをさまざまな指標を使って決め、術前術後の管理にも役立てている病院がある。新潟県立がんセンター新潟病院はその一つだ。同院は胃がん手術数が全国8位となる年間205例(14年)を実施する。

 同院消化器外科では、1991年から2011年までの20年間の胃がん手術5330例から、85歳以上の胃がん手術78例を調べた論文を16年に発表した。それによると術後合併症が起こる割合は、75歳以下が15.3%であるのに対し、85歳以上は24.4%だ。85歳以上はもともと持病も多いが、明らかに高い。

 また、胃がん手術後5年以内の死因を比べると、胃がん以外での死が75歳以下では5.8%であるのに対し85歳以上では19.2%と高かった。胃がんの手術をした85歳以上は、75歳以下より術後合併症のリスクが高く、他の病気で死亡する可能性が高いということだ。

 消化器外科部長の藪崎裕医師はこう話す。

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