乱獲を防ぐため、魚の種類ごとに漁獲量が定められていることが、産地への感度を高めている。とっていい時期・場所ではないところからあがった魚を扱ってしまっては、飲食店として、漁獲制限に反する姿勢を疑われてしまうことにつながる。「味」以外の観点からも、産地の選択と明示が大切なのだと知った。

 希海は、塩原さんと中西さんが立ち上げた、新しい店だ。ふたりとも築地は長いが、店は若い。「自分たちが初代。引き継ぐものはなかった。ゼロから始めた」と塩原さんは話す。

築地の場内で、「希海の仕事はきびしい」との声を、聞いたこともある。他店に比べて早い時間から店を作り始め、他店よりも店じまいは遅い。仕事の大変さを指してのきびしさなのだろうと、当初私は、そう受け止めていた。

 ふたりの言葉を振り返ってみると、希海の選択眼がきびしいのだとも感じられてくる。魚に対して、自身の仕事に対して、顧客への対応に対して、それらを取り巻く環境に対してのふたりのまなざしは、鋭い。当初から「高級鮮魚」を掲げていたのか、選択を重ねた結果として自然と「高級鮮魚」となったのかを塩原さんにたずねてみると、少し考えてから、「両方!」とこたえが返ってきた。

 希海が重ねる選択は、確かにきびしい。だが、そのきびしいまなざしの先にはいつも、魚を口にする人のことを思うやさしさがある。

 択ることが大切なのは、魚を扱う人たちだけではない。魚を含めた食生活を、いま一度、私たち消費者が能動的に「択る」ことも大切なはずだ。

 目利きとは、選ぶこと。同義語を重ねただけのようにも見える言葉だが、奥は、深い。

岩崎有一(いわさき・ゆういち)
1972年生まれ。大学在学中に、フランスから南アフリカまで陸路縦断の旅をした際、アフリカの多様さと懐の深さに感銘を受ける。卒業後、会社員を経てフリーランスに。2005年より武蔵大学社会学部メディア社会学科非常勤講師。アサヒカメラ.netにて「アフリカン・メドレー」を連載中