裕福ではない家庭に生まれた彼は、肉体にも恵まれていない。だが、小柄な肉体を駆使した巧みなフェイントや俊敏な動きによって、ひと回りもふた回りも大きな敵を翻弄する。

 もうひとつ忘れてはならない魅力がある。それは勝利への執着心だ。

 この大会の試合には、いまやワールドカップではあまり見られない「お約束の展開」がある。

 後半30分あたりから判定やファウルを巡って敵、味方が揉め始め、それはやがて乱闘へと発展、混乱のうちにゲームが終わる。
 前回大会でも開催国チリとウルグアイ、ブラジルとコロンビアの一戦がそうした展開となった。

 乱闘が多いのは、ほとんどの試合が「因縁の対決」だから。

 ビッグ3の対決だけでなく、ブラジル対コロンビア、チリ対ペルーなど「絶対に負けられない戦い」は枚挙に暇がない。観衆の熱狂がダイレクトに選手に伝わり、球際の激しさは壮絶なものとなる。

 世界的な名手たちが負けず嫌いな少年に戻って、最後の最後まで勝負に執着する。それがコパ・アメリカ。百周年のタイトルがかかった今大会も、驚きと興奮に満ちた戦いになるはずだ。

(文・崎敬)