尾崎さんの師匠にあたる黒木法晴さんは昭和40年代、海外の牛肉に対抗する牛づくりをするために肉量と肉質、どちらを優先するか大激論になった時、その答えを探すために当時の給料の25倍もの私費を投じてヨーロッパに視察へ出かけました。そこで和牛の競争力を確信し、量ではなく質の追及にかじを切ったのです。以来「宮崎が動けば世界が動く、かくありたい」とおっしゃっていたと言います。その薫陶を受けた尾崎さんは、和牛畜産を始めた時から「世界の和牛」を考えていたそうです。

 尾崎牛が世界から評価される理由は、最初からその覚悟で商品づくりや流通を考えていたからなんだと思います。ニューヨークでは尾崎牛のステーキが1000ドルのコース料理のメインを飾るほどの人気らしいですよ。

 あるいは、群馬県に「山高食品」という玉子焼き屋さんがあります。ここもビジョンが明快なんです。「玉子で世の中を幸せにしたい」それだけ。だから製造するプリンは牛乳を使わないでつくるレシピなんです。ものすごく玉子濃厚な味で、他にはない味わいの商品がつくれていますよね。これも、ビジョンがあるから、です。

 これとは逆に、ある銘柄牛が得意な精肉店さんと商品開発のお話をしていたら「別にその和牛じゃなくても、豚でも、鶏でも、なんなら魚でも肉でも売れれば何でもいいですよ」とおっしゃっていて、困惑したことがあります。それでは考える領域がさっぱりわからないからです。何かスイーツをつくろうとしたときに「いかに玉子を主役にするか」だけを考えればよかった山高食品さんとは対照的ですよね。

* * *

 インタビューに登場した山高食品の牛乳を使わないプリン「天国のぶた」は、人気のテレビ番組「嵐にしやがれ」の取材を受けるなど、メディアへの露出も多いようだ。

 物があふれ類似商品に事欠かない現代だからこそ、どうやって他社と違いを出すか考える前に、いま一度、なぜそのビジネスをやっているか、という原点に戻ることが必要なのかもしれない。