ニューヨークでも人気の尾崎牛
ニューヨークでも人気の尾崎牛
「ビジョンと現実」「ターゲットと商品・サービス」の十字フレーム
「ビジョンと現実」「ターゲットと商品・サービス」の十字フレーム

 今、海外でひそかなブームとなっている「尾崎牛」という和牛をご存じだろうか。但馬牛、松阪牛、神戸牛、米沢牛、宮崎牛、石垣牛などなど、全国の産地がしのぎを削り、まさに百花繚乱(りょうらん)の和牛業界にあって、ひときわ異彩を放っているのが「尾崎牛」だ。

 その成功の理由を、『コンセプトのつくり方 たとえば商品開発にも役立つ電通の発想法』の著者である山田壮夫氏に解説してもらった。山田氏は、電通の広告マンでありながら、「雪降り和牛 尾花沢」などといったローカルの商品開発・ブランド構築にも携わるという異色の経歴の持ち主だ。

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 最近、地方でいろんな取り組みをされている方々とお会いする機会が増えています。皆さん、情熱があって、他にはない何かを考えようと必死で取り組んでいらっしゃいます。でも、なかなかうまくいかないことも多いようです。私は、その大きな理由が「ビジョンの欠如」にあるのではないかと思っています。

 他にはない新しい「コンセプト」をつくるためには、「ビジョンと現実」「ターゲットと商品・サービス」、このふたつの軸を行ったり、来たりして考えなければなりません。そして皆さん、どうやったら「ターゲット」に自社の「商品・サービス」を手に取ってもらえるか、よく考えていらっしゃいます。一方、「ビジョン」については無頓着なケースが多いように思います。

 経営学者のジム・コリンズによれば「ビジョン」とは「単なるカネもうけを超えた基本的価値観と目的意識」「現実的な理想主義」といったことを指します。ビジネスをする以上、お金もうけ大切ですが、それだけでは十分じゃないと言うのです。「事業を通じて社会に貢献しようという思い」、ここがピシッと定まっている事業者さんは強いということなのです。

 たとえば、いま世界を席巻している「尾崎牛」もビジョンがピシッとしています。実は宮崎で生産されているから宮崎牛と言えなくもないのですが、あえてそうは名乗らず、尾崎宗春さんが生産しているから「尾崎牛」です。私も当初は、そんな「生産者の顔が見える和牛」というアプローチがユニークだから成功したんだろうな、と思っていたのですが、実際に尾崎さんにインタビューしたら、鍵はビジョンでした。

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