今回の試みは、1年ほど前に日本で駅弁を取り扱う株式会社日本レストランエンタブライズがフランス国鉄に駅弁の販売を打診したことから始まった。フランス国鉄側も日本文化への憧れが強いフランスでの新規の和食事業、それも地方の料理を移動時に楽しむというフランスにはないコンセプトを気にいったようで、今回の販売が実現した。

 現在販売されている駅弁は「幕内」「助六」など5種類。その中にはパリ・リヨン駅のために特別に考えられた「特製パリ・リヨン弁当」があり、こちらは、前菜、メイン、デザートの3品の食べるフランス人の食習慣にあわせた内容となっている。煮物と卵焼きが前菜。リヨン駅から発着するシャロレ地方の高級牛肉を使ったすき焼きがメイン、カステラをデザートとして楽しむ。白いご飯が苦手なフランス人のために、のりたまふりかけも散らして15ユーロ(約1900円)。幕内弁当は、9つの仕切りに焼き魚やくりご飯もいれて彩りも鮮やかに。こちらもお値段は15ユーロ(約1900円)。スナック感覚の助六弁当とおにぎり弁当が各8ユーロ(約1000円)となっている。

 フランスで販売される駅弁ならではの工夫もある。駅弁を監修した白木克彦さんによると、味がついていない白飯をおかずと交互に食べる習慣のないフランス人向けに、コメは味付きの炊き込みご飯やふりかけで味を加えるなどの工夫をした。さらに日本の駅弁は「ご飯のおかず」用に濃いめの味付けとなっており、そのままだと塩からく感じるため味を調整している。また、食材も傷みやすい白菜や春菊は使わず、パリで仕入れがしやすいもので作っている。こうして販売される駅弁は毎日270食ほど。パリ市内の厨房(ちゅうぼう)で白木さんと日本人のスタッフが作り、駅売店には1日2回配達している。

 販売にあたっては、駅のキオスクにありがちなスピード重視ではなく、笑顔で話しかけ、お辞儀をし、袋を手渡しするといった日本人ならではの丁寧さ「おもてなし」を大切にしたいという。フランスでは早めに駅に到着している人が多いため、効率よりも心のこもった温かさで日本らしさを表現したいと店舗担当の相馬さんは語った。

 今回のパリ・リヨン駅での販売が好評であれば、今後、パリ市内の他の主要駅(北駅やモンパルナス駅)さらに地方の主要駅での出店を目指している。将来、駅弁の種類と販売拠点が増え、日本人の旅の楽しみが、フランス人にもひろがることを期待したい。(フランス・パリ在住ライター・鎌田聡江(かまだ・としえ))