TSSとはTime&Space Savingの略で、「時間、生産スペース、水・ガス・電気の使用量、不良品、人・物の移動距離、CO2排出量などをすべてこれまでの半分に減らそう」という目標である。


 
 ドラッカーも「事業の定義は、目標に具体化しなければならない。そのままでは、いかによくできた定義であっても、優れた洞察、よき意図、よき警告にすぎない」(『マネジメント[エッセンシャル版]』上田惇生編訳、ダイヤモンド社)と述べている。

 具体的でわかりやすい目標を掲げて、社員の動きのベクトルを合わせることが大事なのだ。

(3)社員の自主性を育てる

 もっとも大切で、もっとも難しいのが、社員の自主性を育てることだ。「すべてを半分にしよう」という目標を掲げても、社員がそれぞれの持ち場で、積極的に自分の頭で考え、工夫するようにならないと、経営改善は達成できない。

 ドラッカーも「仕事の大部分については、部下たちにやり方を考えてもらわなくてはいけない」(『ドラッカー先生の授業』ウィリアム・A・コーン著、有賀裕子訳、ランダムハウスと講談社)と言っている。

 酒巻社長も社員の自主性を育てるために、さまざまな方策を行っているが、ここでは二つだけ紹介しよう。まず一つは、社員に答えを教えるのではなく、「なぜ、そうしているの?」と質問をすることだ。自分で気づいて変えた行動でない限り、人は身につかないからだ。

 もう一つは、キヤノン電子では会社方針として「課長は部下の提案を拒否してはいけない」と明確に打ち出していることだ。違反した場合は、降格処分の対象になる。こうすることで、現場の社員が新しいやり方を能動的に提案する動きを育てようとしているのだ。

 上記の三つを着実に実行し、高い利益率が出る筋肉質の会社になってこそ、会社の将来を担う新規事業への投資も可能になると酒巻社長は語る。右肩上がりの成長が期待できない時代に、酒巻社長の手法を学ぶべき企業は、たくさんあるのではないだろうか。