「漫画を見ると、南ちゃんは練習でも本番でも髪を結っていないんです。これは減点にはなりませんが、印象としては悪いかもしれません」(椎名さん)

 新体操は美を競う競技なだけあって、全体の「印象」も採点にかかわってくる。たとえば、現在も国際大会などで高得点を出す外国人選手らは、演技内容もさることながら、その長い手足を生かしたダイナミックな演技で、演技をより強く印象付けることができる。見た目も、審判には大きな影響を与えるのだ。
 
 髪を結うというのは、演技をする上での身だしなみのひとつでもある。そもそも、南ちゃんくらいのセミロングで髪を結わないと、ターンのときに髪が顔にかかったり、前転で髪が乱れたりとよいことなしなのだ。そんな不利な状況(?)にありながら、実績を上げ続けた南ちゃんは、まさに類まれな才能の持ち主と言っていいだろう。

 新体操という優雅な競技で高い実績をあげ、さらにはルックスまで完璧――まさに漫画の世界ならではのヒロイン、という感じであるが、実は実績も見た目も南ちゃんを凌駕する勢いの選手が、現在の日本にはいる。

 そのひとりが、早川さくら選手。日本女子体育大学の1年生ながら、特別強化選手としてロシアにわたっている。現地でコーチの指導を受けながら、国際大会の場数を踏むことで、世界で戦う力を養っている。

 彼女の魅力は、なんと言ってもその美しさだ。演技、スタイル、表情、どれをとっても「絵になる」の一言に尽きる。海外の審判からの評価も高く、「美しさでは世界トップレベル」との呼び声もあるほどだ。これまで外国勢に比べてビジュアルの面で後れをとっていた日本にとっては、大きな戦力になる選手だろう。

 また現役高校生にして活躍している、という点で南ちゃんと共通しているのが、皆川夏穂選手。大原学園高校所属の彼女も、早川選手とともに特別強化選手としてロシアに渡っている。彼女は高校生らしい愛らしい表情が魅力的な選手だが、中学時代に全中と全日本ジュニアともに連覇するなど実績も突出している。

 タッチ全盛期には「南ちゃん」に憧れて新体操を始めた選手も多かったというが、そうした選手たちが日本の新体操を支え、時代を経て、今ではビジュアル・実力を兼ね備えたリアルな「南ちゃん」が登場するまでになった。野球漫画でありながら新体操の認知度を上げ、さらに競技に優雅なイメージも植えつけてくれた南ちゃん。そう考えると、彼女の新体操への貢献は大きいのかもしれない。

(ライター・朝比奈 ゆう)