書店の官能小説コーナーには、都倉葉の『下町巫女三姉妹』(フランス書院文庫パラダイス)、巽飛呂彦の『巫女の秘香』(フランス書院文庫)、柚木郁人の『美少女脅迫写真 鬼畜の巫女調教』(マドンナメイト文庫)など、タイトルに巫女が入った作品が数多く並ぶ。白い衣に、緋色の袴という“制服”を身にまとう巫女は、女子高生や女子大生からも人気のアルバイト先となっている。尼僧を犯すような背徳感は薄れるが、ごく身近に、非日常の扇情性を感じられる職種なのだろう。

 そして、2000年代に入った官能小説の新潮流として、永田氏は女性の台頭を指摘する。

 ほんの一昔前まで、官能小説には淫靡で猥褻なイメージがつきまとい、愛読していることを人前で公言するのは、男性でもはばかられるものであった。しかし、女性の社会進出とともに、「女性読者も増えて、官能作品の愛読者であることや、SM志向の自覚と願望を隠さない世代が、いっそう時流の表面に出てきている」(同書より)という。

 さらに、読み手だけではなく、書き手になりたいと考える女性たちも登場し始めた。2014年には『女流官能小説の書き方』(幻冬舎新書刊)という指南書まで出版され、新聞社主催の「官能小説・性ノンフィクションの書き方講座」は毎回大盛況なのだとか。 

 これら女性作家による官能小説は、優れた文学性を併せ持ち、新鮮な作風で、独特のジャンルを形成しつつあり、新しい読者層を獲得しつつある。

 世相の変化とともに、官能小説の題材は、どんどん広がっていく。不倫への抵抗感や後ろめたさも失われ、かつては変態の代名詞だったSMも、プレイの一環として、市民権を獲得している。対象を拡大し続ける官能小説が、どのような展開をしていくのか、目が離せない。ハードなものからソフトなものまで網羅し、官能小説の文学史となっている本書は、官能小説の豊穣な表現世界への招待となる一冊と言えよう。