預けた時には「何てことないな」と思ったが、ひとりになると、すぐにスマホの存在を思い出すタイミングがやってきた。広い客室やそこからの眺望に感動すると「この素晴らしさをSNSに投稿したい!」という欲求に駆られ、そしてすぐさまスマホがなかったことを思い出す。この後も綺麗な景色やおいしい食事に出合うたびに、同じことを考えてしまった。

 脱デジタル滞在では、こうしたデジタル機器への思いを断ち、そして普段あまり意識しない視覚以外の五感を使うために、さまざまなワークショップを提供している。まず、フィジカルにアプローチするのが「指圧」体験。脱デジタル滞在では、特に視神経に関わる部分に特化した施術を行っている。

 足湯から始まり、全身をほどよい力加減でほぐしていく指圧は、働く大人にとっては至福の時間。指圧師の絶妙な技術もさることながら、さらにその後のアドバイスにも感心した。施術後、指圧師に「もしかして歯ぎしりされますか?」と聞かれた。実は幼少期から歯ぎしりの癖があることを伝えると、顎につながる首筋の部分がこわばっているという。

「この部分は顎だけでなく目にも影響する筋肉なので、力が入りすぎないように意識した方がいいですね。人は集中すると顎に力が入るので、パソコンで仕事をする時も奥歯を緩め、食事でも顎を大きく使うことを意識してみてください」(前出の指圧師)

 施術だけでなく、日常生活でも気を付けるポイントを教えてくれるところがうれしい。

 続いて、さまざまな感覚を使う「夜の集落散歩」に案内してもらう。こちら、ただの散歩と思うことなかれ。全体に照明が抑えめになっている夜の散策路は、昼間とはまったく違う表情をみせる。視界が昼よりきかない分、小川のせせらぎや植物の匂いなど、明るい時には分からなかった気づきにあふれていた。さらに、スタッフの案内のもと草むらを分け入ると、明かりのまったくない場所に出た。夜空を見上げてみると、満天の星空が広がり、思わず感嘆の声が漏れてしまった。

 「こちらへどうぞ」と促されると、そこには寝ころべるようにマットが敷いてあるという粋な計らい。寝ころんで見上げた空は、星の光で地上より明るく見えるほどだった。星の見え方は天候に左右されるが、晴れた夜には感動的な星空に出合うことができる。天候に恵まれたこの日は流れ星を見ることもできた。

 翌日、早朝。今回記者にとって最もハードルが高かったのが、この早朝……というより、もはや深夜のワークショップだった。夜中の3時に起床、4時にはフロント集合。そして、小浅間山への登山に向かうのだ。

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