日ごろの生活で、3時に眠ることはあっても起きることはない。加えて、登山などかれこれ数年はしていない。ペースはおろか、どんな装備で行ったらいいのかもわからない……。だが、心配は無用だった。ここでは、シューズやアウターなど登山用具一式を借りることができるのだ。

 準備を整えて、車で20分ほどのところにある登山口からいよいよスタート。不安の多い……というかむしろ不安しかない登山だったが、前出の岩岡さんが途中で植物の説明をしてくれたり、鳥の鳴き声を聞くために立ち止まったりしてくれるので、楽しくついていくことができた。途中からはさすがに傾斜がきつくなるが、それ以上に、眺望の素晴らしさに目を奪われた。たどり着いた頂上からは、どこまでも美しい信州の山々の稜線や新緑、朝日に照らされる山肌と、まるで絵画のような絶景に、感嘆の声しか出てこなかった。山頂では、スタッフがホットコーヒーを差し入れてくれた。紙コップなどではなく、陶器のカップとソーサーだ。その心遣いと眺望に感動しっぱなしの登山だった。

 このほかにも、温泉の中で浮遊を楽しむ「浮遊浴」や、嗅覚に集中し、木々の香りをかぎ分ける「軽井沢聞香(もんこう)」、「お灸のワークショップ」など、滞在中はさまざまな体験ができる。これらを終えて、いよいよチェックアウトという時。デジタル機器が入ったアタッシェケースを出されて、ハッとした。そういえば、預けていたんだった……。

 ケースから取り出し、久々の再会。さっきまで忘れていたくせに、手にした途端にいろいろと心配になってくる。すぐさまスマホの電源を入れ、メール、着信をチェック。が、あったのは仕事のメールが1件だけ、それも急ぎのものではなかった。

 確かに、移動中や食事中、時には眠る直前までメールチェックするが、実際にそこまで頻繁に緊急の連絡が来ることはない。むしろメールチェックのついでにSNSを見たり、ゲームをしたり……と、スマホに余計な時間を費やしてしまっていることが多い気がする。

 とはいえ、仕事に戻ればスマホは手放せないし、ノートパソコンも持ち歩かなければならない。ただそれでも、せめて食事中はスマホを見なくてもいいか、眠る前はやめておくか……と、デジタル機器との距離の取り方を改めて考えるようになった。機器の便利さを享受するためには、ほどよい距離感が大事。この感覚は脱デジタル滞在をして、初めて肌で感じられたように思えた。

(ライター・横田 泉)