軍事史は、敗戦という未曾有の大事件ともっとも密接にからむ分野である。陸海軍が解体され、陸海軍関係資料が焼却されるか接収されるかして国内に幾らも残らなかった事態、さらにマルクス主義史学の「抑圧」を理解しないで手掛けることができないのが、軍事史であるといってもいいだろう。昨今の社会情勢によって、事実上、軍事史研究が解禁になったからといって安易な研究で終わってほしくないと願っている。

 海軍史研究会は、こうした風潮とは距離を置いて、30年近くにわたり、「資料をたくさん配布し、これらを使って説明していく発表方法の場となり、裏付けのない雑談の場でなければ、自己の主義主張を語る場でもない方向性」で、「資料に基づき考証を重ね、史実を明らかにする考証学的手法によって得られる成果を発表」(同書より)する場として、地道な活動を続けてきた。これまで同会は6回、雑誌『海軍史研究』を刊行してきたが、同人誌的な色彩を払拭できないため、この度、初の本格的論文集として本書の刊行に踏み切った。執筆陣の半数は現職・元職の防衛大学校教授・防衛省防衛研究所所員で、半数が一般の研究者であり、中国出身の研究者も参加している。

 本書は、建軍以来およそ80年におよぶ日本海軍の歴史の中で、組織や人材、戦略の立案、兵器・燃料の拡充など、海軍の日本的体質はどのようにして養われたのか、政治や国際関係にも影響を及ぼしたその実態を、「海軍と外交」「軍備と運用」「海軍の教育」に絞って究明した、日本海軍史に関する初の本格的研究論文集である。日本も今年で敗戦から70年を迎え、少しずつではあるが、旧軍の姿について客観的に論じる環境も芽生えてきた。声高なイデオロギー論争を離れて日本海軍の有り様を見つめ直すのに、本書は最適の研究といえよう。

【関連図書】
海軍史研究会編『日本海軍史の研究』吉川弘文館