■Kyon2 VS. マリリン・モンロー

 小泉今日子の「最初の転身」は、劇的に成功しました。みずからを「コイズミ」と名字で呼び、『まっ赤な女の子』とか『艶姿ナミダ娘』とか、歌い手当人のキャッチコピーをタイトルに持つ曲をリリースする――いまだかつて誰も見たことがなかったアイドル像を確立し、中森明菜と並ぶ同期のトップへと躍り出ます。

 個性派ぞろいの82年組アイドルのなかでも、イメチェン後の小泉今日子は異彩を放っていました。とりわけ新しかったのは、同世代の女の子がコアな支持者になっていたことです。小泉今日子自身、次のようにのべています。

「生き生きと発言したり、お洒落したりするのが、私の思い描く現代の普通の子だった。ここでなら、自分の理想をやっても誰にもとがめられないとやりだしたら、女の子たちがついてきてくれた」(注3)

 女性アイドルというと、今も昔も、男性にとっての「理想のカノジョ」として売り出されます。ところが、断髪した小泉今日子は、女の子からの人気に支えられて「最強アイドル」となりました。

「セックス・アピールに欠けていて、男の子よりむしろ女の子に積極的にウケがよかった」

 短髪アイドル時代の小泉今日子を、そんな風に評している男性評論家もいます(注4)。「セックス・アピールに欠けている」というのは、体形がグラマラスではないことを指しているわけではないはずです。小泉今日子の同期で、小枝のように細かった松本伊代に対し、そういう言いかたをする男性はほとんどいませんでした。

 男性から見て、「女性」としての関心をそそられるかどうかは、体つきの特徴だけに左右されるわけではありません。小泉今日子と松本伊代の違いはどこにあったのでしょうか。男性が「女性」として関心を抱くかどうかは、何が分かれ目となって決まるのでしょうか。

小泉今日子が“女の子”に支持された理由(下)につづく

※助川幸逸郎氏の連載「小泉今日子になる方法」をまとめた『小泉今日子はなぜいつも旬なのか』(朝日新書)が発売されました

(注1)「PERSON IN FOUCUS 表紙の人」(『AERA』2008年9月22日号)
(注2)洋泉社MOOK『80年代アイドルカルチャーガイド』(洋泉社 2013年)
(注3)(注1)に同じ
(注4)宮崎哲弥「「小泉今日子の時代」の終焉」(『宝島30』 1994年5月号)

助川 幸逸郎(すけがわ・こういちろう)
1967年生まれ。著述家・日本文学研究者。横浜市立大学・東海大学などで非常勤講師。文学、映画、ファッションといった多様なコンテンツを、斬新な切り口で相互に関わらせ、前例のないタイプの著述・講演活動を展開している。主な著書に『文学理論の冒険』(東海大学出版会)、『光源氏になってはいけない』『謎の村上春樹』(以上、プレジデント社)など