どうすれば小泉今日子のように、齢とともに魅力を増していけるのか―― その秘密を知ることは、現代を生きる私たちにとって大きな意味があるはず。

 日本文学研究者である助川幸逸郎氏が、現代社会における“小泉今日子”の存在を分析し、今の時代を生きる我々がいかにして“小泉今日子”的に生きるべきかを考察する。

※小泉今日子の「謎」はどこにあるのか(上)よりつづく

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■「バブルおねえさん」たちとの違い

 1966年生まれの小泉今日子は、バブル絶頂期に20代前半でした。

 バブル時代には、若い女性を異常なほどちやほやする風潮がありました。芸能人でも何でもない普通の女子大生が、クリスマスには高級外車でエスコートされ、ティファニーのアクセサリーを贈られる――そんなことが当たり前のようになっていました。

 このため、バブル時代に青春を送った女性の中には、

「男性にどれだけお金を使わせるか」

 が、「女」の価値のバロメーターだといまだに信じている人がいます。バブルを知らない30代以下の女性は、ワリカン・デートに慣れていて、「男にカネを使わせた自慢」がそのまま「モテ自慢」になるという発想がありません。

「あなた、自腹を切って遊んでるの? 悲しいわねえ。私なんか飲み代、自分で払ったこといっぺんもないから」

 バブル世代のおねえさんにドヤ顔でそういわれ、どこが自慢のツボなのか理解できずキョトンとしてしまった―― この種の話を、若い女性から聴かされたことは一度や二度ではありません。

 そして、チヤホヤされ慣れているバブル世代のおねえさんは、

「自分は特別な人間である/特別な人間であらねばならない」

 という意識も、人一倍強いことが多いのです。

 小泉今日子は、酒豪で知られていますが、行きつけのバーで初めて会った人と意気投合し、おごってあげたりすることもあるそうです(注1)。共演した仲間との飲み会では、若くてお金のない役者さんの飲み代を払ってあげている模様(注2)。

「ストレスなく生きていければいいや」

 という考えを持っていて、芸能界でのポジションも、あまり気に留めていないといわれています(注3)。所属事務所に自分から減給を申し出た、という、嘘のようなほんとの話もあります(注4)。給料が高すぎると、ポリシーに反した仕事を事務所が振ってきても断れなくなるから、ということのようです。

「自分に特別な価値があることを、明快な尺度によって証明したい」

 若き日をバブルの渦中で過ごした女性は、そういう欲望にとらわれがちです。小泉今日子は、そんなことにまったくこだわっていないように見えます。青春時代にすりこまれた価値観を、30年近く立って引きずっているバブルおねえさんたちと、小泉今日子は違う次元で生きています。

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