「星のや 軽井沢」には、宿泊者のみが使用できる「メディテイションバス」と日帰り利用も可能な「星野温泉 トンボの湯」がある。どちらも源泉かけ流しだが、源泉は40℃くらい。松沢さんは「普通、かけ流しはコストがかかるもの。“コストもかけ流し”になるんですね。また熱いお湯を流すことは環境に負荷をかけてしまうことにもなる。けれど、ここでは40℃から15℃ほどの温度にして排水し、25℃分をほかにまわすことによって、コストを回収しているのです」と話す。

 つまり、せっかく引いてきたお湯を本来の目的で使うだけでなく、二次利用してさらなる自然エネルギーを生み出している。回収した熱は、まず、給湯のための予熱に利用。さらに、「ヒートポンプ」の熱源とし、60℃のお湯をつくる。

 ヒートポンプとは、エアコンや冷蔵庫でも使われている熱交換の技術。気体を圧縮、膨張させることで温度を上げたり、下げたりし、熱を移動させることで、投入するエネルギーは少ないのに、大きな熱エネルギーを生み出すことができるものである。まさに、自然から「熱(Heat)をくみ上げる(Pump)」技術なのだ。

 排熱を利用したヒートポンプは動力となるボイラーを必要としないので、電気や化石燃料は一切使わない。そのため二酸化炭素の排出はなく、静かで臭いもしない。かなり大きな装置であるが、室内に設置することができ、こちらも宿泊客には見えない、バックヤードの奥でひっそりと働いている。

 もうひとつは地中熱。地下400mの場所から熱を取り出しており、「本格的な地中熱利用の施設としては国内最大規模のもの」と松沢さんは胸を張る。「地中熱交換井」と呼ばれる井戸が3本あり、地上から15℃の水を地下へ送り、熱交換をして25℃の熱を取り出している。ここでもヒートポンプの技術が使われ、水と地下熱との温度差を利用して、エネルギーを生み出しているのである。

 松沢さんは、「自然エネルギーを利用すると、採算が合わず、競争力が落ちるというイメージがあるかと思います。しかし、星のやでは、化石燃料を使っていたときより80%のコストダウンに成功し、1年8カ月で初期投資の費用を回収できました」と話す。これは、施設の置かれた環境をきちんと把握し、それに合ったシステムと運用を計画したから。「エコと経済性は両立しないとダメ」という松沢さんの言葉は力強い。

 ゲストが心地よい時間を過ごすことを最優先しながら、エコへの取り組みも陰でしっかりと行い、採算性もクリアする。環境、自然も含めた、同施設にかかわるすべてのものが幸せになれるシステムがここには存在しているといえよう。