着る人と共に人生を歩むビスポークファッション ~ 一着を愛し続けるラグジュアリー 〈dot.〉|AERA dot. (アエラドット)

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着る人と共に人生を歩むビスポークファッション ~ 一着を愛し続けるラグジュアリー

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「オーダーメイド市場は今後も伸びると思います」と語る紳士・スポーツ営業
部販売担当長の近藤氏

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伊勢丹新宿メンズ館のメジャーメイドスーツは6万円台から

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世界中から取り寄せた生地をファイリング。まるで洋書棚のようだ

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シャツは1万円台からオーダー可能。生地も豊富に取り揃えている

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人気の高い「エドワード・グリーン」のストレートチップ。3足とも同じに見え
るが、全て違う型

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靴もこうして好きな色の革を選べる。つま先部分は茶色、側面は黒など配色も
自由だ

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 アベノミクス効果で伸びる高額消費 今注目を集める高級品の新常識に迫る~Vol.3 ビスポークのファッションアイテム~

 「アベノミクス」の影響もあり高額商品市場が活況を呈している。しかし、同じく高額商品が飛ぶように売れた80年代のバブル景気とは様子が違い、ただ「高いもの」ではなく、付加価値を兼ね備えたプレミアムな商品が選ばれているという。今、なぜこの商品が売れているのか。本連載では、高額商品市場から見えてくる消費者のインサイドに迫る――。

*  *  *

 かつて有名ブランドの洋服を着て、高級バッグを持っていることがもてはやされた時代があった。移り行く流行を意識し、毎シーズン最新のアイテムに買い替えることが当たり前でもあった。しかし、今やブランド偏重・流行追随の時代は終わりを告げ、「看板」よりも「中身」を重要視する傾向がある。“どのブランドの最新アイテムを身につけているか”ではなく、自分の体型にきちんとサイズが合っていることや、その人なりの着こなし、コーディネートの方が大事だというわけだ。そんな中、本当に自分に似合う服に出会うためには、世界でたった一着の服を作るしかないと考えるこだわり派の消費者が増えている。そこで今回はファッション業界の新常識になりつつあるオーダーメイド市場を取材した。

 男性ファンション業界をリードする伊勢丹新宿メンズ館。多くの有名ブランドを取り扱うこちらでも、最近は特にオーダーメイド関連商品の販売が好調だ。一般的にクールビズ定着でスーツ市場が冷え込んでいるといわれるが、同館では1着30万円以上するビスポーク(素材から型、仕様まですべて自由に選べるフルオーダーのこと)のスーツが前年同時期に比べ10%以上売り上げを伸ばしている。さらに、平均価格帯9万5千円のメジャーメイド(好みの生地を選び数種類のパターンを元に採寸して、体型補正までしてくれるイージーオーダー)のスーツも前年比売上20%も増えている。

 先日、同館で一週間にわたって開催されたイギリスの紳士靴ブランド「エドワード・グリーン」の注文会は、前年に比べ売り上げ170%増という大盛況ぶり。ちなみに今回の注文会は、いわゆるイージーオーダーだが平均単価は20万円超だ。
 
 伊勢丹新宿本店紳士・スポーツ営業部販売担当長の近藤詔太氏は、次のように分析する。

 「自分にもっとも似合うものを、長く愛用したいというお客様が増えている証でしょう。以前まで高級ブランドは、所有することが最大の目的でした。しかし、今はご購入後、どう付き合っていくか、どう自分のものにしていくかを大事にされる傾向があります。そのため、商品を吟味し、商品の価値を理解して、その金額に納得したうえでお買い物される方が増えています」
 
 オーダーメイド商品との出会いは格別なもの―−近藤氏はそう語る。例えば今回、好評だったエドワード・グリーンの注文会。参加者はブランドの価値をよく知る「理解者」ばかり。彼らは注文会の数カ月前から、どのような靴をオーダーしようかと夢を膨らませる。そして注文会当日には靴職人と夢の実現のため対話を交える。靴が手元に届くのは約半年後。注文者はその日が来るのを心待ちにする……モノを買うという単純な行為にとどまらない、様々な「楽しみ方」がそこにはあり、それこそ今、消費者が高額な服飾品に望んでいる“特別な体験”なのだという。

 「1万円でも立派な靴を買えるのだから20万円も投資するなんて馬鹿げている。そもそも靴1足買うのに半年間も待たされるなんて無駄。そう思う方もいらっしゃるとは思います。たしかに合理的な買い物ではないですし、お手入れもまめにしないといけないので面倒ではあります。ただ、それがかえって何ものにも代え難い『自分だけの物』へと育ってゆく。20万円もする靴はしっかり手入れをすれば20年、30年と履き続けることができ、さらに日に日に味わいを増していきます。まさにその人と共に人生を歩むわけです」
 
 靴だけに限らず、スーツにしてもシャツにしてもビスポーク商品は品質の高い素材を使い、手間もかかるため金も時間も多くかかる。たしかにある種の無駄や非合理的な部分もあるが、だからこそ所有者はその商品により強い愛着を持つようになるのだという。

 「今のお客様はただサイズがぴったりだから、だけで選ぶわけではありません。もっと深いところ…モノ、ブランドとの“つながり”を求めているのだと思います。2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災を経て消費者の意識はそちらの方向に大きく変化しました。さらに最近ではモノやブランドとだけではなく、その商品の価値を共有できる仲間や社会(集団)ともつながりたいという気持ちが強くなっているのではないでしょうか」
 
 市場拡大とともにオーダーメイドから既製服へと大きな転換が図られた1950年代後半のファッション業界。それから60年の時を経て、今、再び日本の消費者は“自分だけの一着”を求めている。


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