想像してみてほしい。

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 あなたはリビングのソファで横になってうたた寝している。そして目が覚めると、見知らぬ動物があなたを覗き込んでいる。ネコ? それにしては口が大きい。ぎゃ、ライオンじゃないか!

 『セレンゲティ大接近』(日経ナショナル ジオグラフィック社)は、アフリカのサバンナに生息する野生動物たちの姿を、動物と同じ高さの目線で、クローズアップでとらえた写真が129点おさめられた写真集だ。掲載された写真は、冒頭の文章が決して大げさではない臨場感で迫ってくる。

 一般に、多くの野生動物の写真は、望遠レンズでかなり離れた位置から撮影する。それだけ近づくのが難しいからだ。近づいて撮る方法もいくつかある。例えば、カメラを野生動物の通り道に設置して、動物が通ったらセンサーが自動的にそれを感知してシャッターを切るというものだ。警戒心が強かったり、夜行性の動物の撮影などで使われる手段だ。しかし、この『セレンゲティ 大接近』の写真は、そのどちらでもない。明らかに撮影者が意図してシャッターを切ったベストショットなのだ。どうして、そんなことができたのか。

 その撮影方法の秘密を、写真をとったアヌップ・シャー氏自ら明かしている。まず、野生動物のえさ場や通り道などの地面にカメラを設置する。そして撮影者は、離れたところでモニターを見ながら、シャッターを切るのだ。野生動物の多くがカメラのレンズを覗き込むような写真が撮れるのは、シャッター音に気づいた動物が好奇の目で見ているからだとわかる。

 種明かしをされると誰でもできるように思える。近年の一眼カメラのデジタル化とその進化のおかげで撮れることは間違いないが、冷静に考えると、それがいかに困難な作業かわかる。なぜなら、闇雲にカメラを仕込んでも、そこを動物が通ってくれるとは限らないからだ。アヌップ・シャー氏は英国人だが、幼少期をこの地で過ごしている。土地勘があり、野生動物の行動もよく知るシャー氏ならではの撮影方法で、手練れた写真家でも簡単に真似できるわけではない。その裏側では、ヌーににべもなく踏みつぶされた何台ものカメラ、そして何時間も動物を根気強く待ち続ける写真家の努力があるのだ。

 本書の写真は、野生動物が決して人間の前では見せない姿をごく間近で撮ったものばかりだ。そして、その迫力といったら。実際にこの距離で対面したら一撃でかみ殺されそうなチーターの顔のアップ。頭上を全速力で駆け抜けていくシマウマのお腹が目の前に迫る(シマウマのお腹を初めて見た!)。カメラを見つけた像が鼻をのばして検分している写真は、見ているこちらまで、なんだかくすぐったい気がしてくる。毛の一本一本、しわの一本一本までを見るのが、ここまで楽しい写真集はなかなかお目にかかれないだろう。

 本書のタイトルの「セレンゲティ」はタンザニアにあるセレンゲティ国立公園のこと。野生動物の宝庫だ。ネコや犬の写真でも有名な写真家の岩合光昭さんが、若き日にライオンを撮った場所でもある(このとき、撮影した写真がナショナル ジオグラフィック誌の表紙を飾った)。ナショジオ誌にも寄稿するシャー氏の写真は、野生動物を新しい視点で見る機会を私たちに与えてくれる。

【関連リンク】
National Geographic日本版
http://www.nationalgeographic.jp/nng/sp/serengeti/
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