コンピュータシステム、データ収集、通信インフラ、それにもちろん、市や州の政策の効果を評価するための実験を考案する知的な人々の生態系。エビデンスを得るためのこうしたインフラが存在するようになったのは、人間の長い歴史のうちのごく最近のことにすぎない。上流思考に関する限り、僕らはまだゲームに参加し始めたばかりなのだ。

 シカゴでは2016年に、むしろプラスチックゴミを増やす結果になったレジ袋禁止条例が廃止された。代わって市議会は、レジで配布される紙袋とレジ袋1枚につき7セントの税金を徴収することを決定し、2017年初頭から実施している。効果はどうだろう? それが結構うまくいっているのだ。

 経済学者のタティアナ・ホモノフ率いる研究チームが、数軒の大規模食料品店から収集したデータによると、税金導入前に紙袋やレジ袋を使っていたのは買い物客の10人中約8人だったが、導入後は10人中約5人に減った。袋を使わなくなった3人はどうしたのか?

 半数は持参したエコバッグを使い、半数は購入品を袋に入れずに持ち帰った。そして袋を使い続ける5人が税を払ってくれるおかげで、市民サービスの原資が増えた。

 シカゴはまず薄いレジ袋を禁止することによって、実験を行った。最初は失敗したが、失敗の理由はわかった。そこで別の実験を行い、成功したのだ。失敗したやり方を、今後ほかの市が繰り返さないことを願いたい。

 試行錯誤は時間がかかり、退屈でいらだたしいが、僕らは全体としてシステムについての理解を深めつつある。

 この稿はドネラ・メドウズ博士の言葉で結びたい。

「システムを制御することはできないが、設計することや、設計し直すことはできる。驚きのない世界へと確信を持って突き進むことはできないが、驚きを予測し、そこから学ぶことはできるし、利益を得ることさえできる。……システムを制御したり、完全に理解したりすることはできないが、システムとともに踊ることはできるのだ!」

(本稿は『上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』からの抜粋です)