※写真はイメージです(GettyImages)
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『上流思考──「問題が起こる前」に解決する新しい問題解決の思考法』が刊行された。世界150万部超の『アイデアのちから』、47週NYタイムズ・ベストセラー入りの『スイッチ!』など、数々の話題作を送り出してきたヒース兄弟のダン・ヒースが、何百もの膨大な取材によって書き上げた労作だ。刊行後、全米でWSJベストセラーとなり、佐藤優氏が「知恵と実用性に満ちた一冊」だと絶賛し、山口周氏が「いま必要なのは『上流にある原因の根絶』だ」と評する話題の書だ。私たちは、上流で「ちょっと変えればいいだけ」のことをしていないために、毎日、下流で膨大な「ムダ作業」をくりかえしている。このような不毛な状況から抜け出すには、いったいどうすればいいのか? 話題の『上流思考』から、一部を特別掲載する。

「レジ袋禁止」の意味とは?

 どんなに単純な介入も、たちまち複雑になることが多い。一例として、一見ごく単純な介入に思える、使い捨てのプラスチック製レジ袋削減の取り組みを考えてみよう。

 環境保護主義者は、レジ袋をテコの支点と考える。レジ袋は、量的には膨大なプラスチック廃棄物のほんの一部でしかないが、多大な悪影響をおよぼしているからだ。

 軽くて風に飛ばされやすいので、河川や雨水管を伝って海に流れ込む。海洋生物を危険にさらし、海岸の美観を損なう。

 それにレジ袋は、「反持続可能性」のシンボルと言える。工場で製造されるプラスチック製レジ袋は、分解されるまでに数百年かかるかもしれない。それをアメリカは年間1000億枚も製造している。レジ袋は店で買った物を家に持ち帰りやすくするためだけに存在し、役目を終えればたちまちゴミになる。だから解決策は簡単だ──レジ袋をなくせばいい。

レジ袋を禁止したらプラスチックゴミが増えた

 システム思考ではまず、「どんな二次的影響が予想されるだろう? レジ袋が禁止されたら、何がその穴を埋めるのだろう?」と考える。

 消費者はおそらく、(1)紙袋の利用を増やす、(2)エコバッグを持参する、(3)袋を使わなくなる、のどれかの行動を取るだろう。

 ここで、最初の驚きがやってくる。紙袋やエコバッグは、水路に入り込まないという点ではレジ袋よりずっと優れているが、劣っている点もあるのだ。

 それらはレジ袋より嵩も重さもあるので、製造と輸送にずっと多くのエネルギーを消費し、炭素排出量が増える。イギリス環境省は、さまざまな種類の袋を1回使用するごとの環境負荷を算出し、紙袋なら3回、綿のエコバッグなら131回使わなければ、レジ袋よりもエコにならないとしている。

 おまけに紙袋やエコバッグの製造過程は、レジ袋に比べて大気や水質を汚染する物質の排出が多い。レジ袋に比べてリサイクルもずっと難しい。

 そんなこんなで、部分と全体の利益相反の問題が生じる。河川や海の生物の保護が主な狙いなら、レジ袋を禁止するのは得策だ。だが環境全体の改善をめざすなら、得策とは言い切れない。相反する影響を考え合わせる必要がある。

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