想像してみてください。興奮した大勢の人に対し、どのように声掛けし説得すればいいのでしょうか。「こっちは市民だぞ!」などと言われたら、市役所の職員としては強く出にくいでしょう。また一般的に、抗議やデモ活動において強硬に要求や主張する人というのは、相手の言い分にはまず聞く耳を持ちません。職員が、冷静かつ穏やかな口ぶりでも、断った瞬間に激高するかもしれない……。
実際にこうした人たちに対応するのは、ニュースを見ているだけではわからないほどの恐怖を伴う行為だと断言できます。一方的で理不尽な苦情を聞き続け、「着地点」を見いだせないまま、クレーマーと対峙しなければならない現場職員の苦労と疲弊は、想像を絶するものがあるのです。
■「お願い」「注意」「警告」の三段構え
現場でトラブルが発生したといっても、多くの場合、まだグレーゾーンの段階であり、いくら大声で怒鳴り上げたといっても、凶悪事件というわけではありません。なので、いきなり警察を呼んで「業務妨害」だと主張するのは無理があります。
大切なのは段階を踏むこと。庁舎の“管理権(管理責任)”に基づく「お願い」「注意」「警告」の3つを順に行うことです。今回紹介する、三段構えのクレーマー対応を組織で乗り越える仕組みとして取り入れ、最後の砦(とりで)となる職員の、頭の中の引き出しに準備しておくことが重要です。
具体的に説明します。まず、「マスクをせずに、大きな声で騒ぐのはおやめください」と繰り返し“お願い”します。当然、これだけで静かになることはありません。数分間の時間を経て次の手順に移ります。
「先ほどから繰り返しお願いしています、静かにしてください」
「他の来庁者に迷惑です」
などと“注意”します。
それでも、大きな声でのクレームが続けば“警告”に移ります。
「騒がれますと業務の支障になります」
「管理権限に基づいて警告します」
「これ以上騒ぐのであれば、業務妨害に当たると判断して、警察を呼びます」
と3段階の手順を踏んで警察に通報するのです。
例えば、警告を繰り返しても、怒鳴り散らしながらクレーマーが長時間にわたり居座っている場合は、「不退去罪や業務妨害」が適用されます。担当者には“施設管理権限”がありますが、相手が客や市民の立場である以上「居座っている」という程度では、警察は何もできません。逮捕は強制力を伴い人権を奪うものなので、警察も慎重にならざるを得ないのです。そのため「お願い」→「注意」→「警告」→「警察通報」の順に行動すれば、即逮捕とはいかないまでも、警察が介入しやすくなります。