■箇条書きから表を作る

 次に、この短文をもとに表を作成します(「制限なし」「半数」「4分の1」「無観客」をそれぞれ「100%・50%・25%・0%という表記に揃えています)。【図2】を見てください。

さて、伝わりやすいかどうかを吟味しましょう。

 記事では「観客が100%の時の経済効果が1兆8108億円」という表現なのに対して、観客が50~0%の時の表現が「100%時の額からの減少額」という表現になっており、そのまま表にしてもややわかりにくい印象になりました。

 そこで、50~0%にも「経済効果」という項目を作り、計算した数字をいれてみました。【図3】を見てください。

 最初よりも細かな説明となり、じっくり見ないと言いたいことが伝わりにくい印象です。これをもとに、直感的に伝わる図にしていきましょう。

■横棒グラフと縦棒グラフでアプローチ

 この内容を棒グラフに図解しました。棒グラフにはランキングや割合などを表すのに適した「横棒グラフ」と、時系列の変化を伝えるのに適した「縦棒グラフ」があります。【図4】【図5】を見てください。

 今回の内容であれば、時系列ではなく経済効果の割合の比較になるので、Aの「横棒グラフ」が適しています。Bの縦棒グラフは、後述の緊急事態宣言の経済損失との比較のために、あえて縦に短いグラフにしています。

 グラフは数字を打ち込んで表計算ソフトで作成したほうが正確に作成できます。手描きでのグラフは、推移や比較を直感的に伝えるためのものと考え、その上で数字での補足やテキストでの注訳をしっかり行いましょう。

 こうして棒グラフにしてみると、経済効果1兆8108億円に対しての、観客数を減らした際の経済損失の「差」が明確に見えてきます。次は、緊急事態宣言による経済損失を見ていきましょう。

■緊急事態宣言による損失と比較してみる

 記事後半の段落を図解します。記事では緊急事態宣言による経済損失について触れています。

==以下抜粋
ちなみに、第1回目の緊急事態宣言による経済損失の筆者の推定値は約6.4兆円、第2回目は約6.3兆円、第3回目は現時点で実施が決まっているだけで約1.9兆円、この先延長が決まれば約3兆円などさらに増加する見通しである(コラム「延長・拡大を繰り返す緊急事態宣言に沖縄県が追加」、2021年5月21日)。大会を中止する場合の経済損失は、緊急事態宣言1回分によるものよりも小さいのである。
==
 ポイントを短文にすると、

●第1回目の緊急事態宣言による経済損失の筆者の推定値は約6.4兆円
●第2回目は約6.3兆円
●第3回目は現時点で実施が決まっているだけで約1.9兆円、この先延長が決まれば約3兆円などさらに増加する見通しである

 これも棒グラフで表し、先ほどのオリンピックの開催中止による経済損失と比較してみましょう。左右に並べて比較したいのと、緊急事態の損失のデータは時系列なので縦棒グラフにしています。【図6】を見てください。

 作成した図を並べましたが、これだけではまだ伝えたい内容がよくわかりません。「フォーカスしたい部分」の強調や補足で、何を伝えたいかを明確にしてみましょう。【図1】を見てください。

 これで完成です。注目させたいデータに矢印でアテンションをつけ、メッセージを加え、中心に区切り線を入れて比較を明確にしています。

 また、最低限の目安となる線を入れています。目盛りを細かく入れすぎてノイズにならないようするのも視認性を良くするコツです。

 グラフは「注目すべきところに注目させる」を心がけて作成するのが大切です。

 例えば、【色数を絞る】【グラフのタイトルをしっかりと立たせる】【補足・ポイントをプラスする】を意識するだけでも伝わり方が大きく変わります。

 今回は「棒グラフ」と「比較」で図解しましたが、オリンピック開催中止で予測される経済損失よりも、緊急事態宣言による損失の数値がはるかに大きく、縦軸の設定とバランスが難しい図解でした。

 単体ではピンとこない内容も、比較すると気づきが多く、頭の中も整理できます。

 図解はiPadで作成しましたが、もちろん紙のノートとペンでも作成できます。ノートにグラフを書くときは方眼ノートがおすすめです。少し複雑な内容を、わかりやすく整理したいときは、ぜひグラフも味方につけて活用してみてください。

 図解に正解・不正解はありません。どれだけわかりやすく伝わるかがポイント。興味のある記事を読みながら図解にトライしてみませんか?

日高由美子(ひだか・ゆみこ)
株式会社TAM アートディレクター「えがこう!」代表
東京学芸大学美術科卒業後、日本デザインセンターイラストカンプ部に就職。その後コーセー化粧品宣伝部、ワーナーミュージック・ジャパン編成デザイン部でグラフィックデザインに従事する。1995年より株式会社TAMにてアートディレクターとして勤務。並行して、大阪コミュニケーションアート専門学校非常勤講師としてエディトリアルデザインの講義を行った。絵を描くのが苦手な若手スタッフに「描いて伝える」トレーニングを始め、2015年ごろより社外でもセミナーを開催。「地獄のお絵描き道場」をはじめ、セミナーの総受講者は4000人を超える。グラフィックデザインを通じてのビジュアル構築やグラフィックファシリテーションを得意分野とし、2018年より早稲田大学リカレント教育・WASEDA NEO講師を務める。家電メーカーや外資系ヘルスケア企業・大手銀行シンクタンク・外資系コンサルティング会社などで可視化トレーニングを行う。