●定年退職者は若い人のようには時間を味方につけられない

 定年後に退職金で投資デビューをすることが悪いわけではない。時間に余裕もできるだろうし、60歳以降の人生も長くなるだろうから、むしろ投資をはじめるいいきっかけになると思う。

 ただし、大失敗しないためにはいくつかのポイントを押さえてほしい。

◆まとまった金額で一度に投資しない。

 前述のように相場環境は思った通りにならない。手元にまとまったお金があったとしても、時期をずらして少しずつ買っていくか、積み立てをするのがいい。

 コロナショックで株価が大きく値下がりしている今だと、「今なら、一度に買ってもいいのでは」と考える人も少なくないだろう。原稿執筆時点の3月18日の日経平均株価の終値は、1万6726円55銭と1万7000円を下回った。コロナウイルス大流行前の1月上旬は2万3000~4000円の水準であったので、2カ月で3割近く下げている。

 今後は1万5000円を下回るかもしれないし、リーマンショックのときのように8000円割れの事態になるかもしれない。これ以上は下がらないかもしれない。こればかりは誰にもわからない。

 若い世代なら、買った後にさらに大きく値下がりしても、「待つ時間」はあるし、毎年の余裕資金で貯蓄を増やしていくことも可能だ。

 しかし、定年後は原則として「収支トントン」か「貯蓄取り崩し」の生活になる。若い世代のように値上がりするまで長い時間をかけて待つわけにはいかないのだ。

◆金融機関に絶対に相談しない

 銀行も証券会社も「手数料ビジネス」だということは肝に銘じておこう。くどいようだが「投資のもうけの足を引っ張るのは手数料」である。投資家である私たちは手数料の安い商品を選ばなくてはいけないが、手数料が収益になる金融機関は高いものを売らないといけない。利益相反の関係なのだ。

 最近は、銀行や証券会社もノーロードといって購入時の手数料が無料のものも扱うようになったが、多くの場合「ネット専用」と断り書きがある。窓口で担当者が相談に乗ると、ノーロードや信託報酬が安いものを売るわけにはいかないのだ。商売だから、そりゃそうだろう。

 退職金で投資デビューをするなら、初心者向けの書籍を2~3冊読んで、自分で商品を選び、銀行でも証券会社でもいいのでインターネット取引にするのがいい。くれぐれも窓口に出かけて行って、「自分に合ったものを選んでほしい」などと言ってはいけない。

(株式会社生活設計塾クルー ファイナンシャルプランナー 深田晶恵)