山田の言う通りだな、と思う。私たちはなんら躊躇することもなく、「会社の方針が」「営業部とはどうも合わないな」などと口にするが、そもそも会社や営業という人はどこにいるのだろうか。いったい誰のことなのだろうか。よくわからないものに名前をつけて考え、現実として起きていることを見失っているのではないか。

 ありもしないのに、「会社が、会社が」と振り回されているのを止める。ありもしないモンスターや、妖怪のようなものに使われているのを止めたい。組織改革の過程で、私はそう考えるようになった。

●サイボウズがよい会社かどうかなんて、どうでもいいこと

 そこで、「きちんとネーム(名前)でいこうやないか」と社員に呼びかけた。はっきりと、「私は上司のAさんとソリが合いません」「青野さんの方針には賛同しかねます」などと語り合う。

 だから、「サイボウズって良い会社ですよね」などと言われても、そもそもサイボウズそのものは存在していないのだから、それを良いとか悪いとか言うのはおかしいと思う。そうではなく、「社長の青野の夢を共有できる」「所属した部門長の事業姿勢に共感できる」「上司と一緒に仕事がしたい」と思えるかどうかが大事なのであり、社員にはそこから考えてもらうようにしている。

 組織改革が進むと、「私はこの会社が好きです」と口にしてくれる社員が増えた。しかし私は、「あなたが好きな会社など、どこにも存在していないよ」と頑なに否定し続けてきた。それが「100人100通り」の経営を実現するための一丁目一番であるからだった。そのときのことは、2015年に上梓した著書『チームのことだけ、考えた。』(ダイヤモンド社)で詳しく述べている。

 国内外を問わず、多くの企業には事業に向き合うための「コード・オブ・コンタクト」(行動規範や企業行動指針)がある。これを事あるごとに考え、そこに込められた思いを咀嚼していくことで、働いている人たちが、何かしらの考え方をするようになる。

 私は、コード・オブ・コンタクトを掲げることは悪くはないと思う。それは「誰かがそうしたいと思っている」から掲げているはずだからだ。しかし実態は、「誰が掲げているのか」を誰も知らない。多くの場合、経営トップからして「当社には、昔からこういう方針があるから」と口にする。

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石碑に刻まれた理念を後生大事に守る「石碑経営」