小林:それは面白い指摘やね(笑)。

朝倉:島耕作って、『課長 島耕作』でシリーズが始まって、頑張って部長になり、取締役、常務、専務、社長、会長でしょ。

小林:日本的出世コースをリニアーに上がってる感じだよね。

朝倉:昭和の時代におけるサラリーマンの群像劇としては多くの人々が憧れたキャリアなんだけど、ここで展開されるストーリーを、企業内におけるキャリアのロールモデルだと思ってしまうと、とんだ勘違いなんじゃないかと思います。時代錯誤も甚だしい。

面白がって読んでいるうちはいいんやけども、島耕作は今となっては会長になっているわけでしょ?このまま相談役とか顧問になっていくのかな?経産省の『コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)』上だと、役割や処遇の開示が求められてしまいますね。

●ジョブとしての取締役が浸透するか

小林:ある大手企業の人事ですごく記憶に残った事例があってね。その会社のCFOの方をよく存じ上げていて、彼は当時取締役だったんですが、栄転して、グループ全体の稼ぎ頭のグローバルのヘッドになった。その時に、取締役を退任して執行役になるんですよ。なぜなら、CFOの時はコーポレートの観点から各事業を俯瞰的に見る立場にあったが、事業部門のヘッドになるということは執行の責任者であり、取締役に監督される立場になるから。

村上誠典(シニフィアン共同代表。以下、村上):もちろん順調に出世されてるんだけど、取締役っていうタイトル自体は取れているから、日本の旧来的な出世スゴロクの感覚だと「あれっ?」て思う人もいるかもしれない。経営と執行の分離を早い段階から意識されている会社ならではの差配だよね。

小林:その会社においては、取締役というのはまさにジョブだからだったんです。監督すべき役割の時は取締役のジョブを付けるし、監督されるほうであれば、取締役からは外れる。この会社は、明確なディシプリン(規律)を持っておられる。

朝倉:取締役って、その意味では役割ですよね。先日、早稲田大学ビジネススクールの川本裕子教授が「取締役会の勉強会みたいなところに来ると、グレイヘアーのおじさんばかりでダイバーシティーがない」という話をされていたんですが、この時、面白いと思ったのが、「若い人がいない」という指摘。「ダイバーシティー」と聞くと、得てして女性や海外の有識者を増やしていこう、という点については認識があるのだけど、若い人間を入れるという発想は確かにあまりなかったなと。
取締役を、キャリアのご褒美だと位置づけると、若い人が選任されるわけがないんですよ。だけど役割と捉えて、ボードメンバーについてダイバーシティーを本気で重視しようとすると、女性や海外の方だけでなく、年齢というのも一つの軸として考えていかなければならないはずなんです。

村上:確かに、取締役の話って、ジェンダーとか国籍ばかりに意識がいくけど、本当は、取締役のジェネレーションも多様性を追求していかないといけないわけですよね。
業界によって、同じ時代背景で働いてきた世代ごとに、どうしても似てくるじゃないですか。50代の人はイケイケの経験で、40代が市場の下り坂の経験で、みたいに。そうすると、ある程度ジェネレーションを分けて取締役を構成しとかないと、この世代ばかりだと上潮強いけど守り弱いなとか、そういう癖が出ますよね。

朝倉:先日、日経新聞を見ていると、「内部留保に課税する云々」という記事がありました。この議論については非常にナンセンスだと思っているのですが、一方で「なるほど」と思ったのは、役員の年代に関する言及です。今の会社役員のボリュームゾーンって全共闘世代のちょっと下くらいで、少し上の年代の学生闘争の経緯もあって、世代的に保守的な傾向があり、だから投資にも及び腰になるのだと。これ、どこまで本当なのかは知りませんし、そんな単純な話でもないと思うのですが、確かに世代によって発想に何かしらの共通点や傾向はあるでしょうね。

小林:世代感というのは自分が普段感じている以上に思考に影響を与えてますよね。

村上:古いと言われている政治家の世界ですら多少の年齢のグラデーションが出てきているのに、企業の取締役はいまだ「全員60歳以上です」だと、発想に偏りが出ますよ。

朝倉:「おじさん」が問題なわけでもないけれど、おじさんばっかりは問題ですよね。