われわれは、機械に仕事の一部を担わせたうえで、人間が新たに担うべき仕事を作り、機械と共同して全体としての能力を拡張し続けてきた。この構図は未来も変わらないのではないか。

●新たなプラットフォームでは人間が前頭葉の役割に

 ケリー氏は、インターネットにつながっている機器に搭載されたトランジスタ(全部で10の21乗個)が人間の脳のニューロン(860億個)に相当すると考え、現在のインターネットは全体で人間の脳の1兆倍の規模になることを指摘している。しかも数年ごとに倍の大きさに成長しているという。ニューロンの数に関しては、人類はインターネットにかなわない。

 しかし人間の脳では、高度な知的活動を司る大脳のニューロン数は、運動や感覚を司る小脳よりも少ない。さらに大脳の一部である前頭葉が脳全体の司令塔となり人間の理性や知性を司っている。

 今後は人類とインターネットの巨大コンピュータシステムの組み合わせが、より進んだ「知性」のプラットフォームとなるだろう。そのプラットフォームでの人間の役割は、プラットフォーム全体を司る脳の前頭葉のようなものになるのではないか。

 ケリー氏が提示した12のプロセスは、すべてが「今を起点に進化していく」という意味を込め、「現在進行形」になっている。それぞれのプロセスは、このプラットフォームが成長していく不可避な方向性を示しており、多様な領域でイノベーションを起こすヒントとなるだろう。

 人の血液検査の数値をトラッキングすれば、その人の今の健康状態や将来の病気の可能性をコグニファイできるし、大量にネット上にある料理のレシピとリミクシングして、一人一人に最適な献立を自動的に組み立てることもできる。近隣農家の生産状況がトラッキングされていれば、献立に合わせて自動で材料の配送もできる。最寄り駅近のフィットネスクラブを自動で予約できるようになるかもしれない。

 このようなことを繰り返していけば、人間とインターネットを組み合わせたシステム全体の能力は向上していくはずだ。不可避なプロセスを前向きに進めて、インターネットの次に来たるべき「人類とともに進化する知のプラットフォーム」を進化させていくべきではないだろうか。(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)