われわれの日常生活では、Twitterやfacebookなどのソーシャルメディアでの発言や、Googleでの検索履歴、amazonでの購入履歴はもちろん、自家用車や公共交通機関での移動記録や、スマホによる位置情報や通話記録、一日の歩数や体温などの健康情報まで、さまざまな情報が「トラッキング」されている。

 これらのわれわれ自身に関するさまざまなデータに対しては、「コグニファイング(=認知化)」のプロセスが可能になる。冒頭のスーパーの例では、買い物履歴のパターンをコンピュータが「認知」し、その人が次に必要とするであろう商品を予測した。白血病治療の例ではAIが膨大な論文情報をもとに患者の症状を「認知」し、病名や治療法を診断した。

 いくら便利になるからといっても、「トラッキング」や「コグニファイング」が進んでいくことには、抵抗感がつきまとうのではないだろうか。高い知性を身につけ、あらゆる物事を認知できるようになったAIに、人間は仕事を奪われたり支配されてしまうのではないかと不安にも思う。

 スティーブン・ホーキング博士は、2014年に受けたインタビューで「完全な人工知能を開発できたら、それは人類の終焉を意味するかもしれない」と発言している。もし仮にAIが人間の知能に追いつき、追い越すようになったりすれば、そのものすごいスピードに、ゆっくりとしか進化できない人間は二度と追いつけないだろう。

 しかしケリー氏は、そのような可能性は信じていないようだ。AIやコンピュータについては、警戒しながら、うまく利用していけばうまくいくはず、と言っている。

 ケリー氏は、今世紀が終わるまでに、現存する職業の70%が、より進化したオートメーションやロボットに置き換えられると予測している。しかし「人間の仕事はなくならない」と断言する。なぜなら、これまでも、われわれが発明したものがわれわれに新たな仕事をもたらしてきているからだ。

 よく考えれば、現在われわれがやっている仕事のほとんどは100年前にはなかった仕事だ。工場の生産管理、さまざまな商品の設計や品質管理、システム開発やプログラミング、Webデザインやオンラインゲーム制作などは、オートメーションやコンピュータの発明なしではできなかった仕事だ。

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