●「リーダー観察者」ではなく、1人のリーダーとして

今回の本を書き上げるなかで、いちばん苦しかったのは「理想と現実のギャップ」でした。

私は20年近くにわたり、さまざまな経営者やリーダーのお話を聞いてきました。そして、自分自身も小さいながら会社の経営者として仕事をし、多くのリーダーの話に共感してきました。つまり、「多少なりとも自分は理想的なリーダーシップについて、わかっている」という感覚があったのです。

けれど今回、新著『最高のリーダーは何もしない』の企画がちょうど通過したくらいのタイミングに偶然にも、私は文科省で「スポーツ・文化・ワールド・フォーラム準備室」でリーダーとして働く機会をいただきました。

ここで私が目の当たりにすることになったのが、「中間管理職としてのリーダー」と「経営者としてのリーダー」の違いでした。
これは、「自分が資本を出して立ち上げた会社のリーダー」と、「雇われて会社のリーダーになった方」との違いにも共通するところがあるかもしれません。

自分の夢を語り、その夢に共感する人だけと共に走り続ける小さなベンチャーのリーダーと、必ずしもその夢に共感しているわけでもないメンバーにまず共感してもらうところからはじめなくてはいけないリーダーの違い。
一緒に働く人を選ぶことができるベンチャーのリーダーと、人事部から送ってきていただいた人を有無を言わさず受け入れてチームをつくらなくてはいけないリーダーとの違い。

文科省で働くまでは、何でも自分の思いを中心に実現してきたけれど、組織に所属すると、自分ではどうしようもない条件のなかで試行錯誤しなければなりません。

会社でミドルマネジャーとして活躍されている人たちにとっては、あまりにも当たり前すぎる事実かもしれませんが、人事権も予算権も何でも持っている経営者と、権限の限られた中間管理職との大きな違いを、このとき初めて痛感したのです。

そんなわけで今回の本は、これまで出会った数々のすばらしいリーダーたちの話を思い出しつつも、同時に「制約のあるなかで理想を追い求めるリーダーシップが、組織内でどこまで実現できるか」ということも意識した内容になっています。

言ってみれば、起業家としての自分ではなく、組織内で中間リーダーを務めるいまの自分にも向けた一冊なのです。そして実際、文科省のプロジェクトでも、数々のリーダーたちから得た知恵が日々とても役に立っています。

「組織やチームが自分の指示どおりに動かない」
「現場に思いが届かなくて、自分が動き回らざるを得ない」
「リーダーになるつもりなんてなかったのに……」

そんなリーダーたちの悩みを乗り越える「発想転換」への道筋を、読者のみなさんと一緒に見つけていきたいとの願いから、今回の一冊をまとめました。

『最高のリーダーは何もしない』――書店さんなどでお見かけの際は、ぜひお手に取ってみてください。