“手付金”として鴻海側が支払った1000億円の保証金についても、シャープは運転資金には使えないなど使途制限をかけられている。使用時には「鴻海側の承認が必要」(関係者)といい、もはや3月末に前もって受け取った意味がない状態にある。

 今後、鴻海側が何らかの理由で出資をせず、それによって銀行が融資不能に陥り、シャープが資金繰り破綻。さらには契約に基づき、ディスプレー事業を二束三文で明け渡す──。

 それは、シャープにとって最悪のシナリオだが、鴻海にとってみれば最もリスクの少ない投資シナリオだ。このような“不平等条約”をのみ込まざるを得ないほど、無策を積み重ねたシャープ経営陣は、自らを追い込んでしまった。

●“犯人捜し”に躍起 責任押し付け合い保身に走る経営陣

 そのシャープで今、鴻海との契約延期に追い込まれるきっかけをつくった“犯人”として、批判を浴びている人物がいる。3月末でシャープの副社長を退任し、顧問に就いた大西徹夫氏だ。

 鴻海の出資受け入れを決議する前日に、契約破談を狙って、3000億円規模にも上る潜在的債務(隠れ債務)のリストの提出を裏で指示した首謀者とされている。

 確かに、大西氏は出資交渉で鴻海と一騎打ちを演じた官民ファンド、産業革新機構を契約相手として推していたとされ、鴻海案採択を「決議した直後に辞表を出している」(関係者)ことから、犯人扱いされやすい立場にあった。

 ただ、「大西氏犯人説」には疑問もある。各事業カンパニーに、1億円以上の潜在的な債務をカウントさせ作り上げた同リストは、決議前の2月中旬時点で、取締役の間ですでに議論になっていた形跡があるからだ。

 関係者によると、シャープの社外取締役から「こんなリストを今になって提出して大丈夫なのか」という指摘を受けて、鴻海との交渉メンバーだった役員の一人は「問題ない」と答えていたという。大西氏はその場にはいなかった。

 加えて、同リストは、シャープの財務アドバイザーを務めたみずほ証券を通じて、鴻海側に送付されており、大西氏だけで差配できたとは考えにくい面もある。

 もし交渉の過程で下手を打った役員たちが、退任した人間に全ての責任を押し付けようとしているとしたら、悲惨としかいいようがない。その大西氏は、元シャープ社長の片山幹雄氏が副会長に就いている日本電産に、今後再就職する見通しという。

 「誠意と創意」を経営信条に掲げる100年企業に、責任を押し付け合う無為無策の首脳陣によるドタバタ劇の末路が待っていようとは、何という皮肉だろうか。