堀:ぼくはサンタスザーナのことを、日本の50年後を考えるうえで重要なモデルケースになるし、大事なテーマだと思って企画しました。


しかし日本では、因果関係をアメリカ政府が認めないと、なかなかむずかしいことです。

広瀬:そんな因果関係をアメリカ政府が認めるわけがない。それでも警告を出すのがジャーナリストの責任ですよね。

堀:50年後の日本で健康被害が出ないことを願ってやみませんが、もし仮に何かあったときに「補償してほしい」と言っても、「原発事故が原因とは判断できない」と断られるのが関の山でしょう。だからサンタスザーナの教訓を学ぶべきと取材を重ねたのですが、結局、無理でした。

●上映会を自由にやってみたい

広瀬:取材した映像はお蔵入りになったのですか?

堀:いえ、そうするわけにはいかないと映画にしました。
1959年のサンタスザーナ、1979年のスリーマイル、2011年の福島、3つのメルトダウン事故をテーマにドキュメンタリー映画をつくりUCLAの専用シアターで発表しました。

広瀬:反響はどうでしたか?

堀:2回上映しても入りきれないくらい満杯になりました。そのとき週刊誌の『フライデー』(講談社)の記者も取材してくれまして、その記事に「市民上映会の企画」も紹介されたのですが、映像は私がNHK職員として撮ったものだから、自主的な上映会はできなかったです。

広瀬:えっ!

堀:民主主義を標榜する日本にあって、しかも民主主義の発展のためにジャーナリストになった自分ですから、どのような問題でも自由に伝えられるようにならなければならないと思って、ぼくはNHKを辞めることにしました。そして、自分でドキュメンタリー映画「変身 Metamorphosis」を制作したのです。

広瀬:そうでしたか。私も30年以上、一貫して原発問題に取り組んできましたが、1980年代までは、どこのテレビ局も原発問題を深く掘り下げてくれました。ディレクターの人たちも私に好意的で、内部の資料を「広瀬さんには見ておいてもらいたい」といって見せてくれたほどです。

一方、私はアメリカなど海外から直接得た情報や、被害者の証言を伝え、お互いに事実を知るためには協力関係にありました。
それが15年くらい前から、本当の問題を伝えなくなった。これは新聞、テレビ、雑誌はじめすべてのメディアに言えることです。

もちろん広瀬隆なんて危険物扱いで、一切意見を言わせない。そういう中で起きたのがフクシマの事故です。異論を唱える人間の言葉を聞かないようにメディアが変わってしまった原因がなぜかわからないけれど、そういう中で堀さんのように、当たり前のことを言えるスターが出てきてくれたのはすごくうれしい。

堀:そう言っていただくとありがたいです。でも問題があるなら、そこに突っ込んで取材をし、課題を洗い出して解決するための知見を集める。ファクト(事実)の追及は当たり前のことなのに、原発の話になると途端に口を聞いてもらえなくなったり、思想が偏っていると思われたり、大変です。だからぼくも自由に活動して、ドキュメントを制作したくなったのです。

広瀬:堀さんが主宰している「8bitNews」という市民参加型メディアについてくわしく教えてください。

堀:市民参加型のメディアが必要だなと思ったのは、大手のマスメディアが取り扱えなくても、現場の市民がそれぞれ情報を打ち上げてくれればいい、と思ってのことです。

広瀬:堀さんはいま日本全国の方から情報を集めて、発信しているのですね。

堀:そうです。8bitNewsに、YouTubeにアップロードしたニュース映像を送ってもらいます。それをネットの中だけで終わらせるのではなく、ぼくがやりたいのは「パブリック・アクセス」つまり市民が公共の資源・財産にアクセスする権利、市民が自主的に番組づくりに参加する市民メディアなので、テレビやラジオ、ウェブニュースに配信するという環境をつくります。それがだんだん軌道に乗ってきたところです。

広瀬:その市民の動きは、明日への大きな希望ですよ。

次のページ