「絶対失敗しない子育て」を講演する高濱正伸先生
「絶対失敗しない子育て」を講演する高濱正伸先生
出版記念講演会「お母さん、お父さんのための絶対失敗しない子育て塾」の会場
出版記念講演会「お母さん、お父さんのための絶対失敗しない子育て塾」の会場
高濱正伸(たかはま・まさのぶ)花まる学習会代表。1959年、熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学理科二類に入学。在学中から、塾講師や幼児の野外活動の指導者などのアルバイトを経験。同大学大学院修士課程修了。93年2月、小学校低学年向けの「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した学習教室「花まる学習会」を設立。同時に、ひきこもりや不登校児の教育も開始。95年には、小学4年生から中学3年生対象の進学塾「スクールFC」を設立。算数オリンピック問題作成委員や決勝大会総合解説員も務める。現在は理事。テレビ出演や著書も多数。そのほか、公教育の支援や障害児の学習支援など、幅広い活動を行っている。 花まる学習会 http://www.hanamarugroup.jp/hanamaru/
高濱正伸(たかはま・まさのぶ)
花まる学習会代表。1959年、熊本県生まれ。県立熊本高校卒業後、東京大学理科二類に入学。在学中から、塾講師や幼児の野外活動の指導者などのアルバイトを経験。同大学大学院修士課程修了。93年2月、小学校低学年向けの「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を重視した学習教室「花まる学習会」を設立。同時に、ひきこもりや不登校児の教育も開始。95年には、小学4年生から中学3年生対象の進学塾「スクールFC」を設立。算数オリンピック問題作成委員や決勝大会総合解説員も務める。現在は理事。テレビ出演や著書も多数。そのほか、公教育の支援や障害児の学習支援など、幅広い活動を行っている。 花まる学習会 http://www.hanamarugroup.jp/hanamaru/
『高濱正伸の絶対失敗しない子育て塾』(朝日新聞出版)
『高濱正伸の絶対失敗しない子育て塾』(朝日新聞出版)

■「赤い箱から青い箱への切り替え」が大事

 『高濱正伸の絶対失敗しない子育て塾』(朝日新聞出版)の出版を記念して、花まる学習会代表・高濱正伸先生の講演会が開催された。「お母さん、お父さんのための絶対失敗しない子育て塾」をテーマに、子どもが生きる力をつけるためにはどう育てていけばよいのか、家庭では具体的にどんな指導をすればよいのかなどが語られた。

 熱血指導ぶりが話題になっている高濱先生の生の声を聞ける貴重な機会でもあり、子育てに熱心なお母さん、お父さん約400人が出席した。

 講演会は「あのとき聞いておいてよかったと言われることが多い、幼児にも何年生にも通じるポイントから」という言葉で始まった。

 今までの経験上、子育てには赤い箱と青い箱の時期がある。赤い箱は3、4歳から9歳くらいまでの「つ」のつくうち。そして、10歳くらいからは青い箱に入る思春期だ。親は赤い箱から青い箱へ、シフトチェンジをするだけで十分だという。ところが、たいがいのお母さんはうまくいっていない。

 子どもが赤い箱の時期、母親初心者時代によくある失敗例を挙げる。年少から3年生くらいの男の子に向かって「あんた、何回言えばわかるの」と言う人がたくさんいる。これは絶対に無意味なことだ。おたまじゃくしに向かって「あんた、陸に上がって跳びなさい。お母さんもお父さんも、ちゃんと跳んでるでしょ」と言っているようなものだ。男の子をわかろうとするからいけない。相手は二重に別の生き物、男子かつおたまじゃくしなのだから。男の子は、いろいろなことをしないと友達関係もできない。男子同士の鉄則もある。男子の本質、それを全否定しないでほしい。今、なぜ世の中にこれだけ「食えない男子」がいるのか。孤立したお母さんが、母親初心者時代によかれと思ってしたことが、結果的に男の子の角をへし折ってしまったからだ。

■お母さんが切り替えをしてたくさん話す

 子どもはトラブルがあるからいい。事の本質は何か、トラブルは財産だという認識を大人たちが持たなければ育っていかない。いやな経験、苦い経験、不自由な経験、葛藤体験をどれほどさせるかで子どもの将来が決まる。これらの経験を親が除去してしまったので「食えない男子」が量産化されている。お母さんの言う通り、先生の言う通り、人とはうまく付き合い、いやがることや傷つけるようなことはしない、と育った子は戸惑うときがくる。

 社会人になれば、さらに世の中は甘くない。結果を求められ、理不尽だらけの世界だ。クレーマーがいたり、使えない上司がいたり、ズルをしてくる同僚がいることなどが普通なのだ。だが普通とはとれず、ママの言う通りにと思って育ってきた男子は「ママ、ひどいよ。こんなことを言う(する)人がいるんだよ。この会社、ひどいでしょ」となり、ブラック企業などと書き込みをする。面と向かっては喧嘩をすることもできない。

 一方、女の子は強い。高濱先生は総務部長、人事部長などが出席する企業研修の講師も務める。すると「男子はだめだけど、女子はいいです」と各企業から言われるという。女の子がなぜ強いかというと、ずっと意地悪合戦をしてきているからだ。耐性ができているのだ。お友達に少しだけチクッとして、相手が傷つきへこんだことを確認してから「ごめん、ごめん」と謝ってまた付き合う。女子の残酷さともいえる。6年生に聞くと、どこの学校でも一番強い子は女子だという。つまり、圧力を掛けることにも慣れているので、就職して偉そうなオヤジが出てきても心の中で「ふんっ」とできる。決して負けていない。

 5、6年生の女の子がお母さんとバトル、対等な喧嘩ということはよくあるが、100%お母さんが悪い。お母さんが切り替わらなかったからだ。このころになれば、女の子はもう大人。聴く音楽もお友達も世の中観も、全部変わってくる。女の子はませているので、何を聞きたいかはたったひとつ。「ママ、幸せ? あの人(パパ)でよかったの?」ということだ。つまり、女として人生を語り始めるのが5、6年生の女の子なのだ。「ママはこれからパパにもお兄ちゃんにも言わないことを全部教えてあげる。大人の女の本音を話してあげる。まずは恋のアドバイスからいこうかな」なんて言ったら「えー、本当に?」と、やる気満々になる。体のこと、おしゃれのこと、男の子のこと、お付き合いのこと、結婚のことなど聞きたいことだらけだ。

 結婚のこともお母さんが言っておかなければならない。『嵐』に「キャー」とか、それはそれでとってもいい。でも、マジックにかかっていることと同じだ。結婚というのは現実だから。「付き合いなさい。付き合う人は多いほどいいかもしれない。でも結婚は違うのよ。生活、稼ぎだよ」と言って聞かせる。「思いやりだよ。お父さんのなりはあんなだけど、病気のときとかやさしいでしょ。だからいいんだよ」。すると「そうか。そういうところか」と納得する。生活力と思いやり。この時期にお母さんがいい切り替えをして、たくさん話すことができれば母娘ともども一生幸せだ。「恋なんてどうせ冷めるものだから」と言っても、女の子は「だよね」となる。しかし、男の子はロマンチストだからガクッと衝撃を受ける。

■子離れして外の師匠に鍛えられることが大事

 3年生くらいから始まるが、男の子は「ママ、一緒に歩かないで」とひたすら離れていく。夜になると「ママ」と言ってピタッとくっついてくるくせに。6年生くらいになると「あっちに行って」になり、中学生くらいになると「何言ってるの? 微妙。普通」となる。しかし、ママがすべて。女神なのだ。女の子はお母さんに意地悪なことを言うが、男の子は言うつもりがなくてもつい言ってしまうときがある。「授業参観、行こうかな」と言うと「来ないで」と言われる。でも、行かないと「あ、来てないのか」と寂しく思うのだ。中学入試を頑張るのもママのため、部活を頑張るのもママのため、ママのために頑張っているが、つい言ってしまう自分。両方の自分がいる時期なのだ。

 5年生くらいになったら、親が子離れして外の師匠に鍛えられることが大事。「つ」のつくうちは愛情たっぷりで育てる。が、その年になったらどこの先生につけるかが親の仕事と思ったほうがいい。言うことをきかないのは原則なのだ。なまじ「はーい、ママ」と言っている男の子のほうが思春期に壊れてしまうし、男子同士はママの言う通りにしている子を受け入れない。「なに、こいつ」となる。主体的で友達同士の秘密を持って、パンチがある子がもてるのだ。
■わかった瞬間の快感、それを知ると快感で動く

 勉強は「わかった!」という経験が大事だ。お母さんがみていると、答えが合っている、合っていないということに焦点を当ててしまう。どうしても忙しいときには「ちゃんとやってる? 間違ってるの? もう、言ったじゃないの」。よくできた場合には「うん、できたね」と。答えが合っていたらいい顔、間違っていたらいやな顔が繰り返される。子どもは、答えを早く正しく出すことがいいことだと思ってしまう。「あっ、そうか」とわかった瞬間の快感、それを知っていると快感で動く。自分でわかったことが一番楽しいのだ。答えを教えようとすると「やめて」と言う子が後伸びする子の特徴でもある。自分で考えるからこそ楽しい、ということをどう教えるか。テーマはお母さんの言葉であり眼差しだ。

 勉強の仕方を教えるのは5年生くらいからだ。たとえば復習ノート。できなかった問題があったとする。伸びない子はやりっ放し。わかったということを経験できている子は、全部わかりたいので放っておけない。つまり、きちんと復習をする。復習とは解き直しではない。できなかった問題、解答、できなかった理由、ポイント、こういう理由でできなかった、今後の教訓を書くことだ。自分にできなかった問題をきちんとストックしてルーズリーフなどに保存する。そして何度も解いて、3回くらいできるようになったらルーズリーフから抜く。必ず克服していく方法だ。

 中学受験については、3年生の2月にお父さんとお母さんがしっかりと話し合って、一枚岩で「よし、やろう」と決めたのであればいいかもしれない。しかし、降りるときはスパッと降りる。「もしだめだったらやめればいいからね」というような言い方をしたら子どもは伸びない。やる以上は覚悟を決めてやるしかない。が、片づけができない、計画表を書けない、文章を読み込めない、というような状態が続くのであればやめざるをえない。しかし、お母さんはほかのお母さんや周りの手前もあるし、なかなか降りられない。成長段階が間に合わなかったらスパっと降りたほうがよいのだ。やった分は、たいてい中学で生かせるのだから。それもメリットと思って勇気を持ちたい。

 高濱先生は『脱中学受験論』という本を書こうかと思っているくらい懐疑的だという。中学受験に向いている子もいるが、彼らは大人。つまり、大人でないと中学受験などできないのだ。たとえば国語の問題は長文をたった何分かで読み、答える。しかも内容は「この愛するものを失ったそこはかとない悲しみ」のような人生の機微であったり。3月生まれのやんちゃ坊主には解けなくても仕方がない。だめなのではなく、まだ成長段階なのだ。

■嫌い、苦手を言わせず、好きにさせることが大事

 脳は体験でしか伸びない。走って、跳んで、踊って、木に登って、ボールを蹴って、喧嘩してということのほうが、将来的には圧倒的に有利だ。そして、人の話を聞くときに心の目で聞ける子。この人はなにを言いたいのかなという、一番肝心なことに焦点を当てる聞き方だ。これも後伸びする子の大きな特徴である。

 一生を台なしにするのはコンプレックスだ。たった1問できなかったときのいやな気持ちで「算数が苦手。嫌い」と言ってしまう。苦手もなにも1問できなかっただけだ。花まる学習会では、授業中に子どもが「嫌い」などという言葉を言ったら厳しく指導する。ある種の洗脳かもしれないが、これが教育なのだ。「好き」と言っていれば自然と好きになるもの。子どもに嫌いとか苦手とか言わせないように、好きにさせることが大事だ。

 つまり、コンプレックスと自信は裏腹なのだ。1回の失敗体験でコンプレックスに転がってしまったら縛り上げ、1回の成功体験が自信に転がったら嬉しくなる。その成功体験がいかに人生を左右するかということでもある。人間はそういうものだから、成功体験を与えなければいけない。

 勉強もコンプレックスも「お母さんの孤独」ということに深くかかわりがある。実は、わざわざ講演会に来るようなお母さんこそ危ないのだ。頑張り屋母さんだから、子育ても精いっぱい頑張ってしまう。この講演を聞いているときは「あっ、そうそう、お姉ちゃんにちょっと言い過ぎたわ。家に帰ったらやさしくしてあげようかな」と思う。ところが、3日経つと「あんたー」とまたキィーとなってしまう。講演を聞いても本を読んでも3日もたないのだ。早寝早起きがいいし、兄弟(姉妹)を比較してはいけないし、なにかに打ち込むことが大事、そんなことはわかっている。いいことを全部マスターしていい母で頑張ろうとするお母さんが一番危ない。しかも専業主婦。いまや少しでも仕事をしているほうが何倍もましだ。

 お母さんは閉じこもった中でぶち切れながら、お父さんたちの知らない生態がある。確かにやさしいときもある。でも、子どもの寝顔に謝っている。明くる朝、子どもがケロッとしているから救われているのだ。子どもが許してくれているだけだ。いつキィーキィー母ちゃんを卒業することができるか。子育てがうまくいくためには、お母さんはニッコニコが一番大事だが、実際にはやってられないお母さんが多いのだ。お父さんに相談してもブスッとして聞いていたり、「俺は外で働いてる」などと言う態度。しかし、お父さんには悪気はない。外では一生懸命頑張っている。子どもが生まれると男はパパという生き物に変わり、家族が幸せであるために必死に働いているのだ。

 とにかくお母さんには安定してほしい。そのためには何か自分がほっとするカード、おばあちゃんカードや仕事というカードも効く。仕事を始めただけで魔物が取れたというお母さんもたくさん見てきた。昔の良妻賢母のような変にかしこまったお母さんでいたら、今の時代では壊れるのがおちだ。

 大きなテーマは自信。これは心のマジックなのだ。だが「あんた、自信を持ちなさい」という言葉だけでは無理だ。「すごい!」と言われるような成功体験からしか得られない。それが土台にあること。

 「やさしさ」という花は、厳しさ・たくましさの土台にしか咲かない。まずは子どもたちを強く、たくましく育てなければならないのだ。

『sesame』2013年3月号(2月7日発売)より
http://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=14653