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遅刻、8500円。

文・内藤みか

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 息子が私立高校に入学する時、約束したことがあった。それは大検(高卒認定試験)を受けるということ。

 中学3年の時、息子は不登校となった。中学は学校に行かなくても校長判断でどうにか卒業させてもらえた。けれど、高校は違う。学校が設けた出席日数や単位数や定期考査の点数などさまざまな基準をクリアしないと中退になってしまう。 

 今、彼は大変楽しく高校生活を送っているけれど、高卒認定試験を取れば、たとえ不登校になっても大学受験に支障がないので、受検料の8500円を保険代と考え、万が一に備えようということになったのだ。

 普段は机になかなか向かわず学校の宿題すらおろそかな息子だったけれど、世界史さえなんとかすれば全科目合格できるかもしれないと気づいてからは、毎日せっせと世界史に取り組んでいた。彼も私も、高校入試の時以上に準備万端なつもりだった。息子は合格を確信したらしく、私は受かったらiPodを買ってあげる約束までさせられた。

 試験当日、私は電車で30分の会場まで息子を送っていくつもりだった。しかし、締め切りの原稿が終わっていない。仕事を放り出すことはできないので、息子に念入りに地図で説明した。息子は頷き、30分以上余裕を持って家を出ていった。駅からそう遠くはないのできっと辿り着けるだろう。そう信じていたのに。

 試験がそろそろ始まるという時間に家のドアが開いた。そこに息子がいる。目を疑った。

「財布忘れた......」

 言葉もなかった。最寄り駅から定期券で乗り、目的地で差額を精算しようとして気づいたという。
「バカ! なんで財布忘れるんだ! 間に合わないじゃないか!」
 私は息子をなじった。けれどどんなに嘆いても時計の針は戻らない。息子は最初の1時間目を受けることができなかった。一発合格の夢はこの時点で儚く散った。

 11月にある再試験を受けることが確定してしまったけれど、私はあまり落胆していない。忘れ物の恐ろしさを15歳の時点で知り、身体で覚えることができてよかったね、と心では思っている。
 次の試験こそは試験内容だけでなく持ち物も完璧に準備してもらわなくては! 


(更新 2011/8/ 4 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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