ハグ、4200円。 |AERA dot. (アエラドット)

AERA dot.

ハグ、4200円。

文・内藤みか

プロフィール  バックナンバー

このエントリーをはてなブックマークに追加

 最近、とても気になり、また会いたいと思う人がいる。
 私は、彼がよくいるお店を知っている。偶然にも私の知り合いが経営しているバーだからだ。その店で彼に会った。その時は、あ、どうも、程度だった。彼は二十歳そこそこでとても綺麗な顔だちなのだけどとても無口で、ずっとケータイをいじっていて、私と話などしたくなさそうだった。だから私もすぐに彼のことを忘れるつもりだった。

 それなのになぜか胸が疼いた。忙しいくせにワザと寄り道をしてそのバーに寄ったのも、彼がいるんじゃないかという期待があったからだ。

 果たして彼はいた。そして私のことを覚えていてくれた。席がそこしかあいてなかったのだけれど、彼と並んで一緒に飲んだ。私はとても欲張りなので、いつもだったら、もっと話をしたいとか、ふたりきりになりたいとか、ワガママなことを考えるものなのだけど、彼についてはそれもなかった。ただ、また彼に会えた。それだけで通じた気がした。

 彼は前回と同じように、私がそばにいてもケータイをいじっていた。でも、それがいやじゃなかった。話しかければちゃんとケータイから顔を上げて答えてくれる人だとわかったから。そして、事件は起きた。 

 ひょんなことで、私が彼に一杯ごちそうすることとなった。すると彼は、ふざけて帰りぎわに「おれい」と、私をハグしてくれた。抱きしめたのではない。軽く、さっと包んでくれただけなのだけど、私は本当にびっくりした。何にびっくりしたかというと、自分に、だった。普段だったら抱きしめられたら、いかがわしいことのひとつやふたつ連想してドキドキするはずなのに、それがなかったのだ。私の性欲が薄くなったということではない。ハグされることよりもずっと「彼にまた会えた」という喜びのほうが大きかったのだ。

 彼に恋をしたのか、それは自分でもよくわからない。でも彼といた時、えもいわれぬ優しい気持ちが流れた。それはそばにいるだけでいい、という、今までの恋愛感情とは全く異質のものだった。ああ、なんだろう、このキモチ......ッ! 彼もこのキモチを味わっているのならうれしいけれど、きっとそんなことはないんだろうなあ......。


(更新 2010/10/28 )


バックナンバー

コラム一覧

続きを読む

このエントリーをはてなブックマークに追加

プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

あわせて読みたい あわせて読みたい