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置き去り、10800円。

文・内藤みか

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 私は某テーマパークにトラウマがある。数年前、ひどい目に遭ったのだ。入場ゲートの前でイケメンくんと待ち合わせをしたのに、彼は現れなかった。パレードまでには行くというのでひとりで乗り物に乗り、ひとりでハンバーガーを食べ、彼をひっそりと待ち続けた。しかし彼は来なかった。仕事でどうしても抜け出せなかったと言われたけれど、今振り返ると多分嘘だったと思う。

 そんな私に「僕とテーマパーク行きましょうよ」と言ってくれる男の子が現れた。この過去の哀しい経験を話すと「そんなダメな男に引っかかっちゃダメだよ」と笑い飛ばしてくれた。そして「今日はいろいろ連れ回していい?」と楽しそうにパークを歩き始めた。

 あいにくの雨だったけれど、相合い傘で歩けるのでラッキーだったし、おばけ屋敷ではキャーと彼にひっつくこともできて、私の気持ちはどんどん盛り上がっていく。彼のおかげで過去の惨めな記憶はこれできれいに消えてくれる気がした。

 しかし。なぜなのかランチを過ぎたあたりから彼の表情がどんどん曇り、ディナーの頃にはため息ばかりつくようになった。いったいどうしたのと聞くと、突然気持ちが沈むことがあるという。
 辺りはまだ宵が始まったばかり、夜はこれからというところなのに彼はついに私が聞きたくない言葉を口にした。「もう帰る」と。

 私といても楽しくなかったのだろうか。不安でいっぱいになり、周囲にリサーチしてみると、彼は気分屋でそういうことはしょっちゅうだから、気にしないほうがいいと言う。

 でもせっかくのテーマパークなのに......とどうしても虚しさが拭えない。彼だけではない。イケメンさんは突然ふさぎこむという厄介な習性を持っている人が少なくない。人にあまり感情を出せず殻にこもってしまうのだ。

 彼の場合、その殻にこもった姿すら普段は人には見せないので、私にそれを見せたということは、相当心を開いている証拠だよとむしろ評価されたが、ちっともうれしくはなかった。私は前日眠れないくらい楽しみだったのに、花火が不発に終わったかのような淋しさが未だに消えない。

 翌日、彼から「ごめんね」メールが来たけれど、どうしても納得がいかない自分がここにいる。
 


(更新 2010/7/ 8 )


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プロフィール

内藤みか(ないとう・みか)

 小説家、エッセイスト。山梨県出身。デビュー当時「ケータイ小説の女王」の異名をとリ、現在も電子書籍サイトのダウンロードランキング常連。「年下男恋愛」「イケメン」についてのコンテンツを作り続け、「イケメン評論家」としても活動。近年はイケメン恋愛ゲームのシナリオや、芝居の脚本も手がけるように。『夢をかなえるツイッター』などSNSに関する著作も。近著に『誰も教えてくれない Facebook & Twitter 100のルール』。twitterアカウントは @micanaitoh

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