<ライブレポート>流砂のように動き続ける、Bialystocksの止め処ない可能性を確信させた一夜
<ライブレポート>流砂のように動き続ける、Bialystocksの止め処ない可能性を確信させた一夜

 2022年11月にメジャー1stアルバム『Quicksand』をリリースしたBialystocksが、その最新作を引っ提げて行った自身初のツアー【Bialystocks “Quicksand” Tour 2023】。大阪を皮切りに名古屋、東京と3都市を巡る中規模行程で、千秋楽の東京公演は恵比寿LIQUIDROOMにて開催。当日の会場は大入りで、彼らの高い注目度を物語っていた。

 Official髭男dismやKroiなどを擁するポニーキャニオン内<IRORI Records>からリリースされた『Quicksand』は、とにかく越境的なポップ・アルバムだ。菊池のルーツにあるジャズをもちろん、ソウル、フォーク、ロック、アンビエントやエレクトロニカまで、多種多様な音楽を豊かに内包しながら、独創性と普遍性を見事に両立させ、リスナーを限定しないポップ・ミュージックとしての強度も備えている。約2時間にわたって濃密なセットリストを展開し、そうしたBialystocksの音楽的なバラエティを次々と明らかにしていったのがこの日のショーで、それを思えばフランク・シナトラからブルーノ・マーズまでが流れた開演前BGMも納得の選曲だったのだ。

 1曲目はアルバムのオープニングも飾る「朝靄」で、今にも消えてしまいそうな照明がチラチラと明滅するなか、ステージ上には仄かに人影が見えるレベルだ。アウトロの残響音から一瞬のブレイクを挟み、力強い歌い出しの「雨宿り」が始まると同時に、一気に明かりが演者を照らし出す。曲ごとにガラッと印象を変える光と映像の演出もこの日の見所だった部分で、映画監督としての一面も持つ甫木元空(Vo)の美的センスが大いに反映されていたのかもしれない。

 空間系ギターの情緒と高揚が溢れ出し、負けじとリズム隊もダイナミックなグルーヴを醸成する「あくびのカーブ」の演奏は、ほとんどシューゲイザーのようなサウンドスケープを描き出す。最後の菊池剛(Key)のシンセベースにはオーディエンスも大興奮。この日のBialystocksは甫木元と菊池に加え、サポートにギター、ベース、ドラム、そして二人のコーラスを加えたフルバンド編成で、音のレイヤーを分厚く重ねる「あくびのカーブ」のようなナンバーから、甫木元のクリスタル・ボイスが映えるスウィートなジャズバラード「またたき」、幻想的なコーラスワークとテクニカルな演奏で圧倒する「All Too Soon」まで、足し算も引き算も自由自在なパフォーマンスだ。

 淡いシンセと線の細いバッキング・ギターのインディー・ロック感がたまらない「光のあと」を、エレキを弾きながら繊細かつ伸びやかに歌い上げた甫木元だが、続くカントリー調の「Emptyman」ではアコギに持ち替え、先ほどまでの端正な歌唱から打って変わり、奔放でどこか憂いも帯びた歌声を放っていく。ソフルフルなシャウトも飛び出した「コーラ・バナナ・ミュージック」、ラップライクな歌いまわしから様々なスキャットまで、細かく声色を切り替えていた「I Don't Have a Pen」など、彼のボーカリストとしてのポテンシャルを特に感じさせたのがショーの中盤だ。転調を重ねながら音階を飛び越えていく「灯台」のラスト、甫木元の超絶ハイトーンには客席からも歓声があがる。

 誰しも日々の中で嫌なことがあったり、ぬかるみに足を取られるようなことはあるだろう。それでも流砂のように物事は止まることなく、状況や気持ちはポジティブな方向に変化するかもしれない。流砂=Quicksandと銘打たれた最新アルバムに託した想いを語り、ショーはいよいよ終盤へ。途中、甫木元が体調不良の観客を見つけてパフォーマンスを中断し、「お水ください」「立ちっぱなし、しんどいですよね」とステージ上から気遣う場面もあったり、冒頭の歌い出しから歓喜の声があがり、カタルシス爆発のクライマックス・パートでは縦ノリの大盛況を生み出した「Nevermore」、カラフルな照明が会場を鮮やかに照らし、客席のクラップと一体となった「Upon You」のパフォーマンスなど、優れた演者と頼もしいオーディエンスがともに作り出した共感・共鳴の一体感に包まれ、本編のエンディングを迎えたのだった。

 大切な人を失ったことでの喪失感、甫木元自身の死生観が込められている「はだかのゆめ」の弾き語りパフォーマンスから始まったアンコール。その「はだかのゆめ」を主題歌に据え、甫木元自身が監督を務めた映画『はだかのゆめ』から劇中歌「ごはん」を経て、最後は彼らにとって初のドラマ主題歌に起用された「差し色」へ。楽曲制作において「同じことはしない」という美学を掲げるBialystocksだが、二人のバックグラウンドや表現欲求が起こす化学変化の可能性はまだまだ未知数。今後の作品でもきっと新しい景色を見せてくれるはずだ。そう、彼らの“明日は気の向くままに”。

Text:Takuto Ueda
Photo:山川哲矢

◎公演情報
【Bialystocks "Quicksand" Tour 2023】
2023年2月18日
東京・LIQUIDROOM
<セットリスト>
01. 朝靄
02. 雨宿り
03. あくびのカーブ
04. またたき
05. All Too Soon
06. 花束
07. 光のあと
08. Emptyman
09. ただで太った人生
10. コーラ・バナナ・ミュージック
11. I Don't Have a Pen
12. Winter
13. 灯台
14. Over Now
15. Thank You
16. 日々の手触り
17. 夜よ
18. Nevermore
19. Upon You
En.
20. はだかのゆめ
21. ごはん
22. 差し色