『Dinner Party』ディナー・パーティー(テラス・マーティン/ロバート・グラスパー/9thワンダー/カマシ・ワシントン)(Album Review)
『Dinner Party』ディナー・パーティー(テラス・マーティン/ロバート・グラスパー/9thワンダー/カマシ・ワシントン)(Album Review)

 キャリアとスキルを兼ね備えたアーティストが集うと、互いの主張が強いが故、失敗に終わるケースも多くみられるが、ディナー・パーティーの場合、それぞれが自己主張し過ぎず、純粋にセッションをたのしむことに徹している。互いをリスペクトし、キャラクターを知り得た仲だからこその産物……と、いうべきか。

 そもそもは、テラス・マーティンとロバート・グラスパーがツアーで共演した際スタートしたプロジェクト、とのことで。その後、カマシ・ワシントンと9thワンダーが加わり、2019年末にLAのスタジオで制作を始めたのだそう。なお、テラス・マーティン とカマシ・ワシントンは、およそ30年前にジャズ・バンドのメンバーとして知り合ったそうで、いかに彼らが気心知れた仲かが伺える。

 この面々から、本作の作風が如何なものかは予想できるが、言わずともジャズ、ヒップホップ、ネオソウル、ファンクといった、ブラック・ミュージックのルーツに基づいたサウンド・プロダクションで構成されている。実力派と謳われたミュージシャンの余技、鍛え上げられたプレイの数々を「よければ聴いてみてね」というニュアンスの気軽さ、謙虚さ、そして余裕にも満ちている。

 カマシ・ワシントンによる、滑らかなサックスのイントロではじまる「Sleepless Nights」は、ベーシストとしても活躍する米R&Bシンガー=フィーリックスのボーカルを主としたスムース&メロウ。ジャジー・ヒップホップ特有の生音感と、フィーリックスのマイルドなボーカルが相性抜群で、秀でたものをもつ彼等のプロデュース力をあらためて思い知らされた。リリース同日に公開されたアニメーションのミュージック・ビデオは、別の惑星から地球に降り立った4人が、音楽を通じて人々をハッピーにさせるという、コロナ禍にも通じた内容に。

 正式なメンバーにはクレジットされていないが、フィーリックスは同曲はじめ、7曲中計4曲にボーカリストとして参加している。

 次曲「Love You Bad」も、フィーリックスのフィリー・ソウルっぽいファルセットが映える、良質なヒップホップ・ソウル。歌詞やコーラスは至ってシンプルだが、曲全体のインパクトは絶大で、後を引く味わいがある。ボーカル、サックス、ピアノの配分も絶妙。心地よいビートにいつまでも揺られていたいが、2分45秒というコンパクトさも、スムーズに聴くにはベストか?この曲の魅力を最大に引き出したのが、ロバート・グラスパーによる見事なピアノさばき。これにはもう、ただ聴き入るのみ。

 ディアンジェロ(もしくはラファエル・サディーク?)マナーに則った「From My Heart and My Soul」では、当時のネオソウル・ムーヴメントを回想させるサウンド、そして包み込むような暖かさを持つフィーリックスのコーラスが、都会的なグルーヴを生み出す。都会的ながら、その喧騒を忘れてホッと一息つくのにも最適という、そんな矛盾もあったりして。

 4曲目の「First Responders」は、音階を自在に操るカマシのサックスをメインとした、ニューオーリンズ・ジャズ。前3曲はボーカルを際立たせていたが、同曲では ボーカルをアクセント程度とし、ジャズの新しい聞き方を提案するような、インストゥルメンタルでアプローチする。個人的には、本作イチの出来栄え。次曲「The Mighty Tree」もボーカル不在のインストで、滑らかなオーガニック・ヒップホップのビートに、ジャズの上品な演奏がブレンドされた、このセッションだからこそ完成した快作に仕上がっている。

 先行シングルとしてリリースした「Freeze Tag」では、再びフィーリックスのボーカルをフィーチャー。70年代ソウルにインスパイアを受けた90年代R&B(いわゆるネオソウル)的な、ナチュラルで優しい空気感が、心の琴線をかき乱してくれる。フィーリックスのシルキーな声質が、最も際立った曲、ともいえるか。演奏時間は短いが、エンディングのピアノ・ソロも最高。ジャズの要素は薄れるが、ザップ(ロジャー)路線のトーク・ボックスを効果的に起用した「LUV U」も、ラストを飾るに相応しい佳曲。

 今年の春から現在に至るまでにリリースされたアルバムには、全米で大きな社会現象となっているブラック・ライヴズ・マター運動、そして新型コロナウイルスによる影響、政治批判、ポジティブなメッセージ等が含まれているが、本作もまた例外ではなく、世情や黒人を取り囲む社会についての言及がみられる。そういった意味でも、ジャズやヒップホップの原点に回帰した作品、といえなくもない。

 故ヌジャベス・フィーバー(2000年代前期)以降、日本でも根強い人気を誇るジャジー・ヒップホップだが、昨今ではローファイ・ヒップホップがブームになっているし、70年代ジャズ・ファンク~90年代ヒップホップ/R&Bフォロワーにもどストライクで、幅広い層がたのしめるアルバムとなっている。グループ名(タイトル)が示す通り、ディナー・パーティーはじめ、リラックス・タイム、ドライブ、またはフロアでも柔軟に使いこなせそう。

 カマシの妹アマニ・ワシントンが手掛けたアート・タッチのカバー・アート含め、 男子含有率95%……と、予想する。

Text: 本家 一成