<緊急寄稿:COVID-19とジャズ>コロナ禍でもインディペンデントなシーンをエンパワーする「Bandcamp」の取り組み 〈Billboard JAPAN〉|AERA dot. (アエラドット)

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<緊急寄稿:COVID-19とジャズ>コロナ禍でもインディペンデントなシーンをエンパワーする「Bandcamp」の取り組み

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<緊急寄稿:COVID-19とジャズ>コロナ禍でもインディペンデントなシーンをエンパワーする「Bandcamp」の取り組み

<緊急寄稿:COVID-19とジャズ>コロナ禍でもインディペンデントなシーンをエンパワーする「Bandcamp」の取り組み


 COVID-19禍での非常事態宣言下でミュージシャンやリスナーなどを巻き込んで「Bandcamp」というサイトが大きな話題になった。

 Bandcampはアーティストが音源のデジタルデータやCD、レコード、グッズ(マーチャンダイズ)までを販売することができるプラットフォーム。デジタルの音源と物理的なCDやレコード、更にはグッズまでをアーティスト本人やインディペンデントなレーベルが自分たちの手で販売できる場所を提供してくれることがBandcampの特徴のひとつ。僕もアーティストのTシャツやレコードを買ったことがあるが、アーティスト本人が自分の手で発送しているのがわかって、直接繋がれている感覚があるのはファンにとってはうれしい限り。

 またBandcampはその商品の価格の最低金額以上を支払いたければ支払える仕様になっているのも特徴の一つ。アメリカで買い物をした時にチップを払うような感覚で金額を上乗せすることができる。(最低金額が)1000円の音源を1500円で買うことでアーティストをサポートすることも可能だし、アーティストによってはフリーダウンロード的に最低金額を無料に設定して購入者が自由に金額を設定できるようにしている「投げ銭形式」にすることもできる。ちなみに投げ銭の時は「name your price」(お好きな金額を入れてください)と表記されている。

 その他にもBandcampはサイト内に自社メディア的な機能を持っていて、膨大なBandcamp内のアーティストや作品を記事の形でリコメンドしながら、新しい才能だけでなく隠れた良作を新譜、旧譜、再発ともに紹介している。2019年には「A Beginner’s Guide to Contemporary Jazz From Japan」というタイトルで日本のジャズも紹介している。こういった世界的に見ればマイナーなカテゴリーも記事にして紹介していて、あらゆる地域やシーン、ジャンルのアーティストにくまなく目配せしていて、記事だけでなく、それをメールマガジンとしても配信している。これから世界に出ていきたいアーティストにとっては、そのきっかけやチャンスをくれるかもしれないプラットフォームでもある。

 ここまで書いてわかるようにアーティストへの愛情にあふれたサービスを提供しつつ(Bandcamp側が受け取る)販売手数料も10~15%と割安。僕はまだBandcampをやっていない知り合いのアーティストによく勧めていたほど、このサービスを信頼している。

 とはいえ、ユーザーからしてみれば、今や音楽はApple MusicやSpotifyといったストリーミング・サービスに月額1000円ほどを払えば聴き放題。今更わざわざ買うような音源データなんてあるのかと思う人も言えるかもしれないが、大いにある。例えば、Bandcampでは高音質音源も販売できるので、CDと同等かそれ以上の音質のデータも購入できる。好きな楽曲をより良い音質で聴くために買う人も少なくない。ちなみに僕はDJで使う音源でCDがないものはiTunesやAmazonではなく、Bnadcampでデータを買うようにしています。アーティストにとっても自分たちの作品を最大限の高音質で届けられることがメリットになっている。

インディペンデントな活動に寄り添うBandcampがCOVID-19禍で打ち出した大胆企画

 そんなBandcampがCOVID-19状況下のアーティスト支援として、3月20日の1日(24時間)は販売手数料の免除する企画を行った。結果、400万ドル以上を売り上げ、その全額がアーティストやレーベルの手に渡ったことになる。その後も、同じ企画を5月1日にも行い、今後は6月5日、7月3日にも行う予定だ。ここでもアーティスト・ファーストな姿勢がうかがえる。Bandcampがアーティストの販売プラットフォームとしての役割だけでなく、活動の休止を余儀なくされているアーティストへのドネーション(寄付)のためのプラットフォームとしても機能したことになる。この状況下でBandcampが注目されたのは購入金額を買い手が決められるサービスが元々あったから、とも言えると思う。

 ここからようやく本題のジャズの話になるが、言うまでもなくBandcampはジャズのシーンでも多くのアーティストによって使われている。ジャズのようなマイナージャンルではどんなに著名なアーティストでもSpotifyやApple Musicの再生数はたかが知れており、そこでの収入も少ない。それ以前に音源を売って十分な収入を得ることが難しくなっていて、ライブでの収入がメインになっていたのがジャズ・シーンだったという事情もある。

 そもそも今やレコード会社やレーベルから十分な制作予算も出ないので、アルバムを作る際も自費で制作するアーティストも少なくない。例えば、近年話題になったアルバムでもカミラ・メサ『Ambar』やベッカ・スティーブンス『Regina』のようにクラウドファンディングで資金を募って制作したケースも少なくなかったし、ラージアンサンブルの最重要人物マリア・シュナイダーは、彼女のバンド自体が大所帯で、そのために広いスタジオをそれなりの期間借りて使う必要があり、毎回クラウドファンディングで資金を集めてアルバムを制作している。そんな状況だからこそ、ジャズの名門レーベルの〈ブルーノート〉がクラウドファンディング・サービスの「アーティストシェア」と提携していたりもするわけだ。 そんな形でなんとか作った作品もSpotifyやApple Musicからの収入はさほど見込めないというのがジャズの実情だ。だから、マリア・シュナイダーのようにある程度の知名度があるアーティストは多少高めの値段に設定したCDとデータ販売だけで作品を発表し、ストリーミング・サービスには出さないというケースもある。

 ジャズ・ミュージシャンたちを見ていると、ストリーミング・サービスはプロモーション用で、利益は別の場所で得る、という考え方がかなり前から定着していた。ストリーミング・サービスで音源が解禁されたらそのリンクをシェアして宣伝するが、それと同時にBandcampのリンクもシェアして「サポートもよろしく」と言うことも少なくなく、ジャズにとってBandcampは買い手が購入金額を決められる機能を利用したドネーションとしての役割がCOVID-19禍以前からあったように思える。

BandcampとCOVID-19禍がリスナーに思い出させたもの

 そういった背景もあり、COVID-19禍以後、多くのジャズ・ミュージシャンやレーベルはかなり早い段階でBandcampへの誘導を行っていた。

 例えば、ジャズ・ピアニストのファビアン・アルマザンが運営するレーベル〈Biophilia Records〉はBandcampでの作品の売り上げを全てアーティストに支払うことを発表して、ライブが出来なくなり無給状態のアーティストへの支援を募っていた。こういう状況下で、アーティストへの支援を呼び掛ける役割をレーベルが担っている状況を見て、現代にレーベルに所属することの意味を改めて感じたのは僕だけではないだろう。ちなみに〈Biophilia Records〉は普段からCDもレコードも作っていない。これは環境に配慮するレーベルのコンセプトで、フィジカルが欲しいファンのためには環境負荷の少ないインクや紙で作られた美しいデザインのCDサイズのブックレットをダウンロード・コード付きで販売している(日本の折り紙にインスパイアされているそうだ)。〈Biophilia〉はレーベルの立ち上げ当初からBandcampを効果的に使うことにより、データとブックレットだけを販売するかたちでのレーベル運営を行うことができていたとも言えるだろう。

https://youtu.be/IHBYF1-buyQ


 ほぼすべてのミュージシャンがインディペンデントで、シーン自体が決して大きくない規模の(ジャズのような)ジャンルにとって、BandcampのようなプラットフォームがCOVID-19禍で大きな力になっているケースは少なくない。音楽そのものやアーティストに対して直接対価を支払うための窓口があるということがアーティストにとっても、そして、リスナーにとってもこれまでにはないほど大きな意味を持っている。

 ちなみにこの連載で前回紹介したスナーキー・パピーは、Bandcampこそ使っていないが自身のサイトで音源を販売している。中でも「LIVE SNARKY DOWNLOAD」では世界中をツアーして膨大な数のライブをこなしている彼らが世界各地で行ったライブ音源をデータで販売している。CDのような高音質ではなく、音質はそれなりだが、それでもこのバンドのローテーション・システムにより、様々な組み合わせのスナーキー・パピーの音源を聴くことができるのは魅力的だ。ここには2019年だけでも82本のライブ音源があって、日本の川崎と大阪の公演の音源も販売している(ので、観に行かれた方はぜひ買ってください)。これはグレイトフル・デッドやフィッシュ、ストリング・チーズ・インシデントといったジャムバンドのシーンではよくあるオフィシャル・ブートレッグのような形でライブバンドならではの魅力を届けているとも言えて、ファンとしてはうれしい限り。その膨大なカタログの中には2018年版のモロッコやブラジルのように現地のミュージシャンと共演した、通常のアルバムでは聴けない音源もある。例えば、モロッコではスナーキー・パピーの人気曲がモロッコの民族音楽グナワのアレンジなっていて、ここでしか聴けない上に、オリジナルバージョンよりも好きな人もいるくらいのものに仕上がっているのでファンなら必聴だ。こういう音源販売もCOVID-19禍ではアーティストにとってはドネーションの代わりになりうるし、ファンとしてはサポートもできる上に、純粋に欲しい音源が手に入るので誰もが幸せなシステムだと思う。

 COVID-19禍は、ストリーミング・サービスで音楽を聴くことが当たり前になっていて、音源ではなくライブやマーチャンダイズでアーティストの収入を支えていたリスナーに、音源を通してサポートすることを再び思い出させてくれる機会になったとも言えるかもしれない。

Text:柳樂光隆(Jazz The New Chapter)


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