【コラム】短い曲と長い曲でロイヤリティに差は出るのか? リル・ナズ・Xとトゥールで検証
【コラム】短い曲と長い曲でロイヤリティに差は出るのか? リル・ナズ・Xとトゥールで検証

 リル・ナズ・Xとトゥールには共通点がある。リル・ナズ・Xの「オールド・タウン・ロード」は今年、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”でNo.1を獲得した最も短い楽曲の記録を54年ぶりに更新した。一方でトゥールの「フィア・イノキュラム」は、チャート入りした最も長い楽曲の記録を更新した。10分超の楽曲がチャート・インしたのも初めてだ。10:21のこの曲は、前の記録保持者だったデヴィッド・ボウイの「ブラックスター」より24秒長い。

 「オールド・タウン・ロード」が19週1位に君臨したのとは対照的に、トゥールの「フィア・イノキュラム」がチャート入りしたのは1週のみ。バンドが13年ぶりに再始動したことや、過去カタログをストリーミング解禁したことが追い風となったチャート・インだった。

 トゥールには5分を超える楽曲が数十曲あるが、それでも10分を超えるものは少数で、最長は1996年のアルバム『アニマ』に収録されている13:47の「サード・アイ」だ。ただ、ポップ・ソングが5分を超えることは稀で、10分を超えることはほぼないと言っても過言ではない。例えばグリーン・デイのロック・オペラ『アメリカン・イディオット』には、5つのパートからなる長編2曲が収録されているが、「ジーザス・オブ・サバービア」は9:08、「ホームカミング」が9:18と、それぞれ10分を切っている。レディオヘッドがブレイクした『OKコンピューター』に収録されている最も長い楽曲は6:23の「パラノイド・アンドロイド」だ。

 もちろん、多くのクラシック・ロック・アルバムには10分超の長編が収録されており、例えばアイアン・メイデンの『パワースレイヴ』(1984年)収録曲の「暗黒の航海/Rime Of The Ancient Mariner」は13:43、ピンク・フロイドの『アニマルズ』(1977年)収録曲の「ドッグ」は17:04だ。だが長い楽曲は決して一般的ではない。

 米国において、曲の長さによってレコーディング契約、ライセンス契約、著作権法上の扱いが変わってくるものなのだろうか?これは“イエス”でもあり、“ノー”でもある。著作権法は、ソングライターに自身の音楽作品が複製されることを許諾する権利を与えている。米国では楽曲の著作権使用料は、デジタル/フィジカル販売に対してレコード・レーベルからソングライターに支払われる“メカニカル・ロイヤリティ”と、ラジオ再生などに支払われる“パフォーマンス・ロイヤリティ”がある。メカニカル・ロイヤリティは5分以下の楽曲1曲あたり9.1セントが一般的で、5分を超えると1分ごとに1.75セントずつ増える。

 ただ、実際にはアーティストがアルバムごとに受け取れるメカニカル・ロイヤリティの上限が契約で決められている場合が多い。トゥールとRCAレコードが交わしている契約内容は不明だが、曲が1分だろうが30分だろうが、共作者がいようがいまいが、メカニカル・ロイヤリティのプールは91セントに制限されることが一般的で、これはアルバムに10曲収録されていようが20曲収録されていようが変わらない。

 また、レコーディング・アーティストがソングライターでもある場合、レーベルが支払うメカニカル・ロイヤリティを25%減額できるという“コントロールド・コンポジション”という条項が契約に盛り込まれている場合も多い。トゥールの契約もそうであれば、1曲ごとに受け取るメカニカル・ロイヤリティは9.1セントの75%=6.825セントとなる。場合によっては75%にも満たない例もある。

 では、ラジオ再生などに支払われるパフォーマンス・ロイヤリティはどうだろう?結論から言えば、曲が長いからと言って「フィア・イノキュラム」にクレジットされている4人のソングライターが、「オールド・タウン・ロード」の4人(リル・ナズ・X、YoungKio、そしてサンプリングされているナイン・インチ・ネイルズの「34 Ghosts IV」を書いたトレント・レズナーとアッティカス・ロス)より多く受け取ることはない。ただ、ASCAPとBMIではロイヤリティの算出法が異なる上に詳細が公開されていないこともあり、ケースバイケースで多少の差が生じるため、「オールド・タウン・ロード」と「フィア・イノキュラム」ほどラジオでの再生回数に差がある楽曲同士を比較すると、再生ごとのロイヤリティに差が出ることがある。

 また、PandoraやiHeartRadioなどのインターネット・ラジオ・サービス事業者は、レーベルなどと直接ライセンシング契約をし、ASCAPとBMIを通していないことから、曲によって1再生ごとのロイヤリティが異なることがある。

 ただ、どんな場合にしろ、曲が異常に長いからといってラジオ再生が短い曲の2曲分としてカウントされることはない。SpotifyやApple Musicなどのオンデマンド・サービスでも2分の曲と10分の曲は同じようにカウントされており、レーベルごとでロイヤリティに差があっても、曲の長さによる差はない。Pandoraなどのネット・ラジオも同じで、直接契約が成立していない場合に法定レートが適用されることからの差はあるが、曲の長さは関係ない。SiriusXMなどの衛星ラジオの場合も同じで、レーベルとの契約による差があっても、曲の長さは関係ない。

 短い曲は長い曲よりも多く聴いてもらえるという利点がある。「フィア・イノキュラム」を1回ストリーミングする時間で「オールド・タウン・ロード」を5回再生することができる。つまりロイヤリティも5倍だ。もちろん、「オールド・タウン・ロード」が飽きられる可能性もあり、「フィア・イノキュラム」がピンク・フロイドの「クレイジー・ダイアモンド/Shine On You Crazy Diamond」やグリーン・デイの「ジーザス・オブ・サバービア」に並ぶ長尺の名曲として聴き継がれることになるかもしれない。だが、「オールド・タウン・ロード」が今後“2010年代後半のヒット曲”プレイリストに含まれることはほぼ確実なことから、最終的にはロイヤリティのレートよりは、楽曲の寿命が大きな差を生むと言えるだろう。