『I Am > I Was』21サヴェージ(Album Review)
『I Am > I Was』21サヴェージ(Album Review)

 昨2017年は、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で8週連続のNo.1を獲得したポスト・マローンの「ロックスターfeat. 21サヴェージ」と、同チャート12位、R&B/ヒップホップ・チャート5位、ラップ・チャート4位をマークした「バンク・アカウント」で大ブレイク。今年はカーディ・Bやミーク・ミル、グッチ・メインなど売れっ子のアルバムに多数参加するなど、ひときわその存在感を示した21サヴェージ。

 本作『I Am > I Was』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で2位まで上昇したデビュー作『Issa Album』(2017年7月発売)から1年半ぶり、通算2作目のスタジオ・アルバム。アルバムのリリースは、昨年10月に発表したミーゴスのオフセットとメトロ・ブーミンによるコラボ・アルバム『Without Warning』(最高4位)から、約1年ぶりになる。

 本作からの先行シングルはなく、前月に自身のツイッターで「12-7-18」(発売日)と投稿したのみ、大々的なプロモーションもされていない。リリース翌日、アルバム・プロデューサーの1人であるルイス・ベルが、本作に収録されている「All My Friends」を手掛けたことをインスタグラムで発表したり、自身のインスタにもいくつか宣伝的なものをアップしたりはしているが、(ここ最近増えている)ゴシップを交え、メディアを煽ってどうのという感じではない……ところが、21サヴェージのイイところでもある。

 その「All My Friends」では、「ロックスター」で共演したポスト・マローンがボーカルを担当しているが、フィーチャリング・アーティストとしてのクレジットはなく、その他の楽曲に参加した豪華アーティストたちも、あえて名前は伏せられている。これもまた“らしい”粋な演出。「All My Friends」はポスト・マローンまんまのテイストだが、それだけにヒットが期待できそうな曲ともいえる。ビデオを制作中とのウワサも……。

 オープニングを飾る「A Lot」は、女性ボーカル・トリオ=ザ・ファズの「I Love You for All Seasons」(1971年)をサンプリングした、生音ベースのレトロなヒップホップ・ソング。同曲では、今年自身のアルバム『KOD』を大ヒットさせたJ.コールがボーカルを担当している。こちらもコラボ・アルバム『Drip Harder』をヒットさせたばかりのリル・ベイビー&ガンナは、セットで「Can't Leave Without It」に参加。

 「Monster」で共演したのは、今年「This Is America」で世界に衝撃を与えたチャイルディッシュ・ガンビーノ。この曲でも「銃」について触れた一節があり、グローヴァー氏らしいリリックも聴きどころといえる。『Without Warning』でコラボしたオフセットも「1.5」で再タッグを組み、相性の良さをみせている。この曲は、その『Without Warning』や前作『Issa Album』、ミーゴスやクエイヴォのソロ・アルバムなどを手掛けたウィージーがプロデュースを担当している。

 その他には、90年代フレイバー漂うミッド・チューン「Good Day」にスクールボーイ・Qとプロジェクト・パットが、アガる系のフロア・トラック「A&T」でインパクト絶大なラップ&ボーカルを披露した、シティ・ガールズという米マイアミ発の2人組ガールズ・ラップ・デュオも(クレジットはないが)ゲストとして参加している。

 故XXXTentacion(エクスエクスエクステンタシオン)やリル・ウージー・ヴァートなどを手掛けるTM88によるプロデュース曲「Ball w/o You」や、サウス・サイドとメトロ・ブーミンが手掛けた「Break Da Law」、サンタナの「Samba Pa Ti」(1970年)をネタ使いした「Out for the Night」、大ヒット曲「Bank Account」の続編的な「ASMR」など、ゲスト不在のナンバーも、良質なヒップホップが満載。売れ線ではないのに、リスナーを惹き込む21サヴェージのセンスとパフォーマンス力には恐れ入る。

 1992年生まれ、米ジョージア州アトランタ出身の26歳。2015年にミックステープ『The Slaughter Tape』でデビューし、翌年には<2016 XXL Freshman Class>の新人アーティストに選ばれ、注目を集める。前述のアーティストの他、ドレイクやトラヴィス・スコットなどトップ・アーティストの作品に参加し、ここ最近のヒップホップ・シーンにおいて欠かせない存在となっている。

Text: 本家 一成