ドビュッシー全集 必携のボックスセットが登場(Album Review)
ドビュッシー全集 必携のボックスセットが登場(Album Review)

 クロード・ドビュッシーは、1862年に生まれ、1918年に没した。つまり今年はドビュッシーの没後、丁度100年という節目の年である。よってレコード各社から、旧録音の再発や集成、新譜がひきもきらないし、演奏会の演目にかかる回数も多い。他にもアニヴァーサリー・イヤーを迎える大作曲家たちがおり、そちらも毎年恒例の似た展開が予想されるのだけれど、昨年の暮れ押し迫ったころに発売され、ドビュッシー・ファンを欣喜雀躍させたのが、この33枚組の『ドビュッシー作品全集』である。

 旧録音を寄せ集めただけだろう、などとゆめ侮ってはならない。「全集」と名乗るには、それ相応の理由があるのだ。まず収録曲がスゴい。既に知られた作品は言うに及ばず、異稿版はあるわ、他の作曲家たちによる編曲版もあるわ、ドビュッシーの自作自演もあるわ、そして何より特筆すべきことに世界初録音もあるわ、至れり尽くせりとはまさにこのこと。このボックスに収録されていない曲は、個人蔵のため現時点で収録出来ないただ1曲のみ。現在までに発見されている作品を網羅してあり、非の打ち所がない。

 演奏者も多岐にわたり、その名前を列挙していたら日が暮れてしまうが、いずれも高い評価を得ている名盤から選りすぐられている。しかも、ワーナーや旧EMI録音が中心にあるのは間違いないのだが、レーベルの垣根を超えて出来た全集で、それが奏者の驚くべきバラエティの豊富さの源になっている。まさしく「全集」を名乗るに相応しい鉄壁の布陣である。

 この驚くほど念の入ったボックスの監修を務めたのは、2,400ページもある分厚いドビュッシー書簡集(ガリマール書店)の校訂などを手掛けたドビュッシー研究者、ドゥニ・エルラン氏。読み応えのあるブックレットに残念ながら日本語訳はないのだが、価値を更に高める、うれしいオマケになっている。いや、そんなブックレットはいりませんという声に応えるためか、iTunesの配信も用意されているので、そちらをチョイスするのも手だろう。いずれにせよこのボックスセットの完成度を超えることは、他のどのレコード会社にとっても至難の業だろう。

 そして最後に急いで付け加えておかなければならないのは、この決定的なボックスのフィジカルディスクは、初回生産限定生産盤である、ということだ。ほら、もういてもたってもいられなくなったんじゃありませんか?迷うことはなにもありません。いま買わないと後で泣きを見ることになりますよ!Text:川田朔也

◎リリース情報『ドビュッシー作品全集』
Warner 9029573675