ベジャール没後10年 伝説の舞台『第九』再演舞台裏に迫るバレエ・ドキュメンタリー
ベジャール没後10年 伝説の舞台『第九』再演舞台裏に迫るバレエ・ドキュメンタリー

 20世紀、バレエ界に革新をもたらした振付家の一人、モーリス・ベジャール。『ボレロ』『春の祭典』などと並び賞賛される傑作のひとつが、ベートーヴェンの『第九交響曲』である。この壮大な作品の再演プロジェクト舞台裏を、カメラは丹念に捉えている。

 ベジャール没後10年である今年、多くのベジャールに関連する舞台作品を見た方も多いだろう。またベジャールといえば『ボレロ』なら知っている、という方も多いと思う。そのベジャールが振り付けた作品『第九交響曲』は、1964年にブリュッセルにて初演され、当時世界各地でセンセーションを巻き起こした舞台だ。しかし1978年のモスクワ・クレムリン宮殿での上演を最後に封印。その後、1999年のパリ・オペラ座のパリ公演を最後に途絶えた。総数80人あまりという、多くの優秀なダンサー不可欠である本作は再演は不可能とされてきた。

 しかし2014年に、東京バレエ団創立50周年記念シリーズ第7弾として、東京バレエ団とモーリス・ベジャール・バレエ団の共同制作として空前絶後の一大プロジェクトが実現した。ある「一瞬」である舞台実現に向けて、カメラは芸術監督であるジル・ロマンをはじめ、ダンサーやの人生にも視線を向ける。

 聞き手はダンサー達の子として産まれながら女優という道を選んだジル・ロマンの娘、マリヤ・ロマン。限りなく内側の人間でありながら、外の視点を保っている彼女の存在が、ダンサーたちと観客である私たちの心を繋いでくれる。

 『人類は、皆兄弟だと思う?』ーー第九の4楽章歌詞に用いられているシラーの詩「歓喜に寄せて」を通して、問い続けられるこのメッセージに、ベジャールの振り付けは我々の眼前にひとつの答えを見せてくれていると感じる。ベジャールが4つの楽章に与えた「地」「火」「水」「風」という象徴が舞台に描き出す神秘的な魔方陣は、その象徴性ゆえに、時代を超え、文脈と文化を超えて、愛と優しさを視覚的に体現するという偉業を成し遂げたと言えるだろう。

 『ダンシング・ベートーヴェン』は12月23日、ヒューマントラストシネマ有楽町、 新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMAにて公開。Text:yokano