ピーター・ブルック最新作『バトルフィールド』初日開幕、5人の出演者による戦争後に残された世界観
ピーター・ブルック最新作『バトルフィールド』初日開幕、5人の出演者による戦争後に残された世界観

 11月25日、ピーター・ブルックの最新作『Battlefield』の初日の幕があいた。全ての無残な戦いが終わったその後に残された者達の、悔恨や覚悟、そして未来へと歩むための視線。シンプルな中に全てが詰まったあっという間の80分だ。

 世界3大叙事詩の1つとされる『マハーバーラタ』を徹底的に読み解いたブルックと脚本のジャン=クロード・カリエールは、かつて全9時間かけてこの物語を上演した。今回は、戦いが終わったあとの大地に横たわる、戦場(battlefield)が舞台。わずか4人の役者とジャンベ1つというシンプルさで、物語は象徴的に、比喩的に、現実的に、陰に陽に姿を変えて目の前で展開されていく。

 ピーター・ブルックはもちろん演劇界の巨匠として多くの舞台を作ってきたが、音楽ファンとしてはオペラの演出家としての舞台を思い起こされる方も多いだろう。近いところでは『魔笛』『ドン・ジョバンニ』が記憶に新しく、また『ザ・スーツ』におけるミュージシャンの役割など、音楽に於けるブルックの姿勢と演出は、常に鮮烈な印象を与えてきたのではないだろうか。

 今回もジャンベたったひとつではあるが、かつての『マハーバーラタ』の出演者のうち、唯一、今回も出演するのが演奏者である土取利行であることが、ブルックの「音」に対する重要度の意識を痛いほど感じさせてくれる。ブルックとの知己を得て40年を育んできた時間全てが、80分に集約されていると言っても過言では無いだろう。

 柏木の音を思わせる乾いた音で「何もない舞台」に時が宿り、場面転換はもちろん、役者の鼓動を表し興奮をあおるようなクレッシェンド、過去と現在が一瞬で入れ替わったことを知らせ、本当に小さな役者のアクションに、その素材すら分かるような効果音を入れる…ジャンベひとつから届く、音の情報量の多さに驚くはずだ。

 今年の9月にパリのブッフ・デュ・ノール劇場で初演され、現在日本を含むワールドツアーとなっている。東京では11月29日まで新国立劇場中劇場で公演は続く。28日(土)の昼公演終了後には、演出のマリー=エレーヌ・エティエンヌによるアフタートークショーも予定されている。現代、そして今の私たちが抱える様々な現実とマハーバーラタが、この舞台で思いも寄らぬほどのシンクロし、そして呼応し合う。この希有な体験を逃さないようにしたい。text:yokano

◎公演概要
ピーター・ブルック最新作
【Battlefield】『マハーバーラタ』より
公演日程 2015年11月25日 (水) ~2015年11月29日 (日)
会場 新国立劇場 中劇場
脚本 ジャン=クロード・カリエール
翻案・演出 ピーター・ブルック マリー=エレーヌ・エティエンヌ
音楽・演奏 土取利行
出演 キャロル・カルメーラ ジャレッド・マクニール エリ・ザラムンバ ショーン・オカラハン

公式サイト
http://www.parco-play.com/web/program/battlefield/

写真撮影:谷古宇正彦