風邪は病院に行かなくても治るかもしれないけれど、骨折は病院に行かないとちゃんと治らない。そう言いたいために、「骨折」という表現を使っています。

 妹さんの状態がうつ病、またはうつ状態だとしたら、自然に治る可能性は低いと思います。外出することを嫌がられ、「もう嫁にもいけない歳だ」などという言葉を日常、受け続け、お医者さんの適切な治療を受けないのなら、さらに症状が悪化する可能性が高いからです。

 それでね、農家の長男さん。世間体を一番大切にしている人達は、変化を嫌います。

 そもそも、世間というのは、「所与性(しょよせい)」というものを一番大切にします。それは、「続いていることを変化させない。今あることを受け入れる」という原則です。

 真夏の高校野球が、どんなに高校生が熱中症になっても続くのは、「所与性」にみんな従っているからです。先月、この連載で書いたように、アジア・太平洋戦争中、効果のなくなった特攻攻撃を続けたのも「所与性」です。

 特に、日本人は続いていることを中止したり、変革したりすることを嫌います。それは、何も変えなくても、まがりなりにも共同体が続いてきたからです。

 かえって、何かを変えてしまうと、中途半端な結果になって、共同体が混乱すると考えるのです。

 世間体を気にして、妹さんの状態を無視していても、とりあえず、世間付き合いは続き、家及び自分達の評価が下がることも村八分になることもない、と家族の人達は考えるのです。

 でもね、農家の長男さん。この時間は永遠に続くのでしょうか?

 妹さんに冷たい父親と祖父・祖母は、今、おいくつでしょうか? あなたが38歳ですから、父親は60歳ぐらい、祖父・祖母は80歳ぐらいでしょうか。間違いなく、20年後には祖父・祖母はお亡くなりになっているでしょう。その時、父親は80歳。あなたは58歳。妹さんは55歳。さらに10年して、父親が亡くなるとします。あなたは68歳。妹さんは65歳。

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