ツッコミとは、テニスや卓球のような「来た球を打ち返す」という反射神経を求められる球技に似ているところがある。彼らはボケ担当の芸人が放つ「ボケ」という球を打つだけではなく、さまざまな状況に追い込まれて的確で鋭いツッコミを返す技術にも長けているのだ。

 いわば、ツッコミとは、ボケをいち早く察知して拾っていく能動的な芸であると同時に、自分の身に降りかかってくるさまざまな状況に即座に対応する受動的な芸でもあるのだ。ツッコミの本質はコミュニケーションである。相手がいて、そこにどう反応するのか、ということがツッコミでは重要になる。だからこそ、ほかのタレントや共演者との調和が求められるテレビの世界では、ツッコミ担当の芸人が重宝されることになるのだ。

 個性的なキャラクターやギャグで一世を風靡したピン芸人が、その後で人気を落として「一発屋」と呼ばれてしまうことが多いのは、彼らの芸が本質的に他人からのツッコミありきで成立する「ボケ」の芸だからだ。ボケはそれだけで認められることが難しいタイプの芸である。だからこそ、ピン芸人としてテレビで長く生き残っているのは、いずれもツッコミ体質の芸人である。

 これは芸人だけに限った話ではない。坂上忍、マツコ・デラックスなど、テレビで引っ張りだこになっている人にはツッコミ体質のタレントが目立つ。ボケというのは笑いを生むための核となる重要な役割を担っているのだが、テレビの世界ではその能力を上手く生かすのが難しい。お笑いコンビのバラ売りもますます一般的になっているため、ボケ担当の芸人にとっては厳しい時代である。(ラリー遠田)

著者プロフィールを見る
ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

ラリー遠田の記事一覧はこちら
暮らしとモノ班 for promotion
【フジロック独占中継も話題】Amazonプライム会員向け動画配信サービス「Prime Video」はどれくらい配信作品が充実している?最新ランキングでチェックしてみよう