42歳で電撃結婚、翌年には高齢出産。激動2年を経た女優・水野美紀さんが、“母性”ホルモンに振り回され、育児に奮闘する日々を開けっぴろげにつづった連載「余力ゼロで生きてます」。第3回はいよいよ陣痛からの出産へ。「地獄」のような痛みと戦った末にもよおした便意がまさかの……。
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人間の脳は、辛い記憶を「忘れる」機能を持っている。
辛い記憶だけでなく、必要な記憶、必要でない記憶、それらを勝手に精査して、デリートする。
忘れられるから生きていける。
「忘れる」というのは人間にとってとても大事な能力の一つなのである、と昔何かで読んだ。
私のあの日の記憶も、いささかぼんやりとして、断片的である。
陣痛がなかなか強くならないので、「陣痛促進剤」を使用することになり、テキパキと準備が整えられた。
私は和室に敷かれた布団の上に横になっていた。
天井からは産み紐がぶら下がっている。
紐といっても、かなり幅広の長い布が輪になってぶら下がっているのだ。
点滴の準備が整い、促進剤が投入された。