佐野元春が“佐野元春 & THE HOBO KING BAND”名義で『自由の岸辺』をリリースした。佐野自身の曲を新アレンジで録音したアルバムだ。「ハッピーエンド」「ブルーの見解」など11曲収録。中でも「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」は圧倒的だ。オリジナルはロック。今回はジャズのテイスト。手練れのミュージシャンだからこそ、ギターのカッティングも、ドラムスのハイハットも、フルートの響きも、1音1音が心地よい。
「僕は今、2つのバンドで活動をしています。モダンロックをやるときはコヨーテ・バンド。ルーツロックのときはザ・ホーボー・キング・バンドです。なぜ2つのバンドが必要なの? よく訊かれます。デビューしてまもなく40年になります。ロック、ブルース、ジャズ、レゲエ……。いろいろな音楽をやってきました。音楽の表現の幅はどんどん広がってきました。1つのバンドでは表現しきれなくなってきたんです」
ライヴも、アリーナ、ホール、ライヴハウス……、いくつものスタイルで行っている。
「東京の六本木にビルボードライブ東京があります。ここでやるときは、ザ・ホーボー・キング・バンドで、自分の曲をさまざまなアレンジで演奏します。その中で特に気持ちよくやれた曲、客席からいい波動をもらった曲を『自由の岸辺』に収録しました」
日本のミュージシャンの多くは、レコーディングとツアーは別のメンバーで行う。CDは技術もギャラも高いミュージシャン。長期にわたるツアーはスケジュールを押さえやすいミュージシャン。しかし、佐野はレコーディングメンバーそのままでライヴも行う。
「バンド・スタイルが好きだからです。メンバーにはシンガーソングライターである僕といつも同じ方向を見ていてほしい。同じ気持ちを共有してほしい。それが音楽の質を上げるからです。客席の反応をメンバー全員が感じ、音楽をアップデイトして、次の作品に反映させます。僕たちの音楽が素晴らしいか。そうでないのか。答えのすべてはライヴにあります」
この5年ほどは特に佐野の活動は活発だ。2つのバンドでコンスタントに新作を発表し、それぞれのライヴも行っている。60代を迎えてなお、佐野の容貌も若々しくなっている。