その後、羽生のジャンプは助走がごく短いという話になったが、それはまあそういうこととして、次に選手目線から音楽はふたつに分けられるという話に。ストーリーが想像しやすい曲とそうでない曲のふたつ。小塚は後者が好きだそうで、その理由を短く語った瞬間、錦戸が「間口が広いんですね」と受けた。
「きちんとした日本語を使うなー」と感心し、アップになった錦戸の顔をしみじみ見た瞬間、「あ、高橋くんに似ている」と気づきましたとさ、が27日の夜だった。
この困った系の顔、俳優・錦戸亮には大変な武器だと思う。テレビドラマ「ごめんね青春!」の先生役、映画「羊の木」の市役所職員など、困ってるフレーバーだから単純じゃなくなる。置かれた状況に向き合う時の誠実さ、懸命さなど精神性が表れる。
これが高橋というアスリートだと、どうだろう。
高橋ファンである私が観察するところだが、彼が勝つのは困ってるフレーバーを感じさせない時だ。感じさせる時は、勝てない。
銅メダルを取ったバンクーバー五輪と6位に終わったソチ五輪がわかりやすい。
バンクーバーでの彼はショートプログラムもフリーも、ずっと「ドヤ顔」だった。自信たっぷりなドヤ顔でググッと迫り、フッと力を抜く。リズムに乗った緩急自在の動きと顔、両方合わせて全身から色気があふれていた。
連続表彰台の期待がかかったソチでは、ショート4位。順位を上げねばならないフリー、冒頭の4回転が両足着氷に。そこからの彼はどんどん穏やかな表情になり、最後はずっと笑顔だった。困ってるフレーバーの笑顔。色気は時々感じさせたが、ドヤ顔は見せず、6位で終わった。
「こんな優しい子」がドヤ顔になる時
高橋はソチ後に引退、スポーツキャスターやフィギュア解説者としてテレビに出演し、ダンサーとして舞台にも立った。スポーツ番組でスーツ姿の高橋は、いつも困ったフレーバーだった。本領発揮のアイスショーならと出かけてみたが、「歌舞伎とフィギュアの華麗なる融合」をうたったショーを選んだのが失敗だったか、ド派手な衣装に身を包んだ彼は主役格なのに、これまた困ったフレーバーで、ドヤ顔は見られなかった。