街中でカメラを持って撮影をしているとき、警察官から職務質問を受けた人もいらっしゃるでしょう。ここで誤解しないでほしいのは、不審だから声をかけるとは限らないということです。カメラを持っているだけでやみくもに声をかけることもありません。

 実際は通報を受けて現場に行くケースが多いですね。たとえば「街中でカメラを持ってウロウロしている人がいる」と連絡が入ると、警察官は仕事ですから現場に確認に行きます。そこでパッと見て、その人が本当に不審者かそうでないかはだいたいわかるものです。ただ、疑いは一つ一つ潰していかなくてはいけません。つまり、疑いを晴らすために声をかけるのです。

 ですから、警察官に声をかけられたら、身構えずに堂々と答えればいいんです。「撮影した写真を見せてください」とお願いすることもありますが、これも疑いを晴らすため。たとえ、女性の姿が写り込んでいたとしても、ほかの写真を見れば盗撮でないことはわかります。 逆に、人に見せられないような写真は撮るべきではないと思うんです。意固地になって「任意だから見せません」と言われてしまうと、警察官としても、「はい、そうですか。任意ですからいいですよ」なんて言えません。むしろ何かを隠しているのではないかと疑い、とことんまで確認します。それが警察官の仕事ですから。

 つまり、何もやましいことがないのに拒んだところで、お互いにとって時間のムダ。警察官もすぐに確認が取れればパトロールに戻り、街の治安が保たれます。そのためにも協力してもらったほうがいいんです。 盗撮犯と間違われたり、周囲の人に怪しまれたりしないように、いくつかのポイントがあります。まずはカメラを堂々と出して、誰が見ても撮影愛好家だとわかるような格好をすることです。周囲の人に安心感を与えることにもつながります。

 普段着やスマートフォンで撮影する場合は、ゆっくりした動作で撮ることをおすすめします。これも、「写真を撮っている」ということを周りに知らせる意味合いがあります。あとは撮影時に、他人に背後から近づかない。盗撮犯と間違えられることを防げます。そして最も大切なのは、もし警察官に声をかけられたときは、お互いの時間をムダにしないためにも、協力的な対応をしてください。「検挙に勝る防犯はなし」という言葉がありますが、盗撮犯を捕まえるよりも、盗撮する人をなくすことのほうが大切。写真愛好家のみなさんには肩身の狭い思いをせず、堂々と写真を楽しんでほしいと願っています。

(注)2006年、旭川市の商業施設で女性をつけ狙い、カメラ付き携帯電話で着衣の臀部を背後から盗撮した事件。〈下着や裸体ではなく着衣の姿の盗撮を含む撮影行為〉が、迷惑防止条例が禁止する「卑わいな言動」に当たるとの判決が出た。

◯小川泰平
おがわ・たいへい/犯罪ジャーナリスト。神奈川県警察本部刑事部、警察庁刑事局刑事企画課などに30年間勤務していた元警察官

(文/吉川明子)

アサヒカメラ特別編集『写真好きのための法律&マナー』から抜粋

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