「MLBにおけるチーム作りの戦略は変わってきた。(大金を費やすだけでなく、)スーパーチームを作るには幾つかの方法がある。ヤンキースは常にスーパーチームを目指す。2009年以降はワールドシリーズを制することができていないが、最善の結果を夢見て、努力をしていかなければいけない」
ヤンキースらしからぬチーム作りを開始した2年の前の夏、ブライアン・キャッシュマンGMはそんな風に説明していた。
近年のメジャーでは綿密なデータ分析が進み、同時に贅沢税、収益分配、ドラフト選手&海外FA 選手への投資額制限といった小規模マーケットチームの救済政策が確立されていっている。おかげでヤンキースのような金満チームのアドバンテージは目減りし、大物FA選手より、将来有望なプロスペクトの存在が重要視されるようになった。キャッシュマンが目をつけたのもその部分で、ここで戦力補強の方法を変えていく方向に舵を切ったのだった。
ひたすらに大枚をつぎ込むだけでなく、目指したのは若手育成と効果的な補強の融合。言葉で言うのは簡単でも、ファン、メディアもせっかちなニューヨークで、一時的な低迷を覚悟し、近未来に向けて準備するのは勇気のいる動きだったに違いない。失敗すればGMの首も飛びかねない大きな変化だった。
しかし、ヤンキースは昨季に早くも再びプレーオフ進出を果たし、キャッシュマン以下、フロントの見方は正しかったことは証明された。短期間に多くの使える人材を集めたスカウティングの確かさまで含め、名門チームの“勇気ある転換”は称賛されてしかるべきだろう。
ジャッジ、セベリーノ、サンチェス、トーレスといった20代の選手が中心になり、同時に今オフのスタントン獲得のように、必要に応じて周囲を肉付けする資金力も保っている。だとすれば、ヤンキースの強さはもうしばらく続いていくかもしれない。今年か、来年か、近い将来にこの名門チームが通算28度目の世界一に輝くことがあれば、その際には2016年夏に迎えたターニングポイントが改めて注目されることになるのだろう。(文・杉浦大介)