愛媛のみかんジュース、京都・宇治のお茶、高松のうどんだし……。水以外の液体が出てくる蛇口は、その地方の名物となっている。そこに新たに加わったのが、兵庫県の淡路島特産のタマネギを使ったスープが出てくる蛇口だ。
「(建物に)入るといきなりあってびっくりしました。おいしいし、インスタ映えしますね」
大阪市から家族で淡路島を訪れた40代の郵便局員の男性が、蛇口から出てきたばかりのたまねぎスープを手に話した。神戸淡路鳴門自動車道などから行ける淡路ハイウェイオアシス(兵庫県淡路市)に設置された「淡路たまねぎスープスタンド」。二つ並んだ蛇口からは、ひねると熱々のたまねぎスープが出てくる。お披露目されるとすぐに、多くの人々が列を作った。
「画期的で面白いですね」(兵庫県芦屋市の40代女性)
「水以外のものが出てくる蛇口を初めて生で見ました。こんなに濃いスープが出てくると思わなかったので驚いています」(神戸市の40代の会社員男性)
列に並ぶ人たちは、おっかなびっくりと、楽しそうに蛇口をひねっている。たまねぎスープからは、湯気とおいしそうなにおいがたちこめる。スープはコンソメ味で、フライドオニオンをトッピングすると香ばしさが増す。
いったいなぜ、たまねぎスープが出てくる蛇口を作ってしまったのか。
スープの製造元で淡路ハイウェイオアシスを運営するユーアールエー(兵庫県淡路市)によると、淡路たまねぎスープは、同社の人気ナンバーワン商品。2007年に発売し、累計販売総数は5500万食を誇る。ハイウェイオアシス内の試飲コーナーには長蛇の列ができ、1人で10~20パックをまとめ買いする人も珍しくないという。
「社内の会議では、1年ほど前から、試飲コーナーのポットじゃなくて、蛇口からスープが出たら、インパクトがあるし楽しいよね、という意見が出ていました。当社で一番人気の商品を、手軽に、思う存分堪能していただけたらという思いが高まり、スタンドの設置が決まりました」(同社の担当者)
スープスタンドの大きさは、高さ1.9メートル、幅0.9メートル。ヒーターで温められる寸胴鍋にたまねぎスープを入れ、蛇口とつないだ。無料で何回も試飲できる。提供時間は午前11時から午後5時で、年中無休。設置の際に保健所ともやり取りし、衛生面の基準もクリアした。
ここでふと疑問がわいた。いくらでも飲めるのなら、たまねぎスープが売れなくなるのでは? しかし、担当者は「スープの味には自信がありますし、飲んでいただければPRになります。世界で初めて、ここだけの蛇口から出てくるスープを楽しんでいただきたい」と胸を張る。
淡路島を訪れた際は、蛇口をひねってたまねぎスープを思う存分味わってほしい。ただし、熱々なのでやけどにはご注意を。(ライター・南文枝)